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2017年12月24日19:50

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1997タイ旅行【6】名もなき町の思い出(その5)

 夕涼みをしているのであろうか、道端に出て来て井戸端会議をしている人々の横を(昼間は全然人がいなかったのに、ここの人たちは本当に皆昼寝をしていたのであろうか)などと思いつつ通り過ぎると、道に出したテーブルを囲んでいた若者たちにヨー!と声をかけられた。「ハーイ」と返事すると、たちまちのうちに人が集まって来た。
「どこに行きたいのー」
「アユタヤー」
「アユタヤー?」
「えーと、チェンマイ、ここ、ピサヌローク、アユタヤー、バンコクー」と地図を広げて説明する。今日のお昼にはピサヌロークにいたんだけどね、と言うと、横っちょから「あれー、でもなんで今ここにいるんだー?」という鋭い指摘をされてしまった。それは訊かないで欲しかった。
 「列車を間違えたんだ」と説明すると、皆ふうんと納得して「とにかく駅はあっちだから、あっちへ行け」と教えてくれる。だから列車を間違えてここにいるんだから駅の場所は知ってるんだけどなあ。ひょっとしてこの人たちは我々がどっかから歩いてやって来たと思っているのか?
 とはいえ、人々の親切さに感動した我々は明るく手を振って別れる。中でも、本当に心配そうな顔をしてこちらを見ていたおじいさん、あの人は去年亡くなった大学時代の恩師にそっくりだったなあ、と思いながらゆっくり歩いて駅に戻ると、なんとその恩師そっくりのおじいさんが先回りしていて(それにしてもいつの間に・・・)、制服くんをはじめとする駅員たちに「あの子たちアユタヤに行きたいらしいんだけどね、なんだかここに来ちゃったらしいんだよ」などと説明していてくれるようではありませんか。
 更にそのおじいさん、我々の方に向き直り、「ご飯は食べたか?腹は減ってないか?あっちに行けば店があるからあそこで食べなさい」というようなことを言いつつ、商店街を一生懸命指さしてくれる。ああ、まさか今は亡き恩師にそっくりな人に異国の地でこんなに親切にされようとは。これも仏のなされたことか、とその粋なはからいに思わず本気で涙ぐむ。
 皆の勧めでご飯を食べに行ったその屋台でもまた、ひと騒動。まず何か炒め物をしているおばちゃんにヤキソバを作ってもらおうとするのだが、これがタイ語会話集を見ながら説明してもなかなかうまく伝わらない。そこへいきなりどこからか恐ろしくひからびたバーさまが現れて、なにごとかを一生懸命説明してくれるのだが当然何のことだかさっぱりわかりゃしない。
 「とにかくこの店で一番うまいものをくれ!」
と絶叫すると、バーさまはまあとにかく座れ、てなことを言い、おばちゃんは炒め物を始める。バーさま水を運んできてくれる。バーさまがそこらに集まって来た若者をつかまえ、「アンタちょっとは英語できるんでしょ、この子たちに説明してやっておくれよ」「イヤ俺は英語はちょっと・・・」てな押し問答を繰り広げるさまが、他人事のように面白い。
 そこへ先程駅で時刻表を見ながら「ウーン、タイ語で書いてあるので何がなんだかさっぱりわからん」と唸っていた私に「アユタヤに行く快速列車はこれだよ」と教えてくれたおじさんがふらりと現れる。おじさん、バーさまに「この子たちはアユタヤに行きたいんだって」と説明を始める。ハーンとうなずいたバーさま、そこで素早くできあがった料理を運んで来る。おお、まぎれもなくヤキソバ。
 数日のうちにすっかり身についてしまった習慣通り、テーブルに並べられた幾種類もの香辛料を料理にかけようと手をのばすと、すかさずバーさまの待ったがかかる。まず食べてみて、それから自分の好みに合わせてかけるんだよ。これは甘い、こっちは辛い(辛い、を表現した時のバーさまの眉根を寄せた表情が忘れられない)。これは・・・まあ、嘗めてみな。
 そこへ屋台にめしを買いに原チャリでやってきた主婦、我々を見て怪訝な表情をする。アユタヤに行きたかったんです、と口を開くまでもなく、バーさまが逐一説明してくれたようだ。苦笑を投げて寄越す主婦。つられて私もちょっぴり苦々しく笑う。そうなの、アユタヤに行きたかったのにねえ、と笑う主婦。そうなんです、と笑う私。ふたり顔を見合わせてうふふと笑い合う。なんとなく昼間の列車の中と似たような状況になってしまったが、笑い合った後の私の気持ちは、それはそれは晴れ晴れとしたものであった。
 やがて食べているのを見てなんとなく安心したのか、駅で出会ったおじさんはまたふらりと去って行った。ヤキソバうまかった。座っている間にとにかく死ぬほど沢山の蚊に刺されたが、しみじみうまかった。15バーツの食事にたいへん満足し、立ち上がってごちそうさま〜と手を振ると、また皆が笑って手を振ってくれた。バーさまがひとりいつまでも心配そうに、駅はあっちだよ!あっちにちゃんと行くんだよ!てなことを言いながら、駅の方向を指さしていた。明日は町中に「昨日外人見たよー」「あーアレでしょ、ピサヌロークからアユタヤに行きたかったのにチェンマイ行きに乗っちゃった人たちでしょ」「なんか暇そうにうろうろしてたねえ」「駅でぐーぐー寝てたって」「船着き場でボケッとしてた」などという噂が飛び交うことであろう。
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