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2017年12月24日19:47

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1997タイ旅行【5】名もなき町の思い出(その4)

 ふと誰かに話しかけられているような気がして、顔を上げた。すると、そこには釣り人くんの心配そうな顔があった。彼は私が疲れている、と思ったのであろう。そこは陽が当たって暑いから、この陰に入りな、と、船着き場に作られた屋根の下の腰掛けに座るように身振り手振りで勧めてくれた。
 ありがたく忠告に従うことにしたが、陽がそろそろ傾き始めているために、日光は斜めに差し込み、屋根の下は日陰でもなんでもないのである。暑いことには変わりがない。それでも私がありがとう、と微笑んでお礼を言うと、釣り人くんもまたビックリするほど無邪気な笑顔を見せてくれた。高校生くらいの年頃だろうか、対岸に渡るためにやって来る土地の人々とは快活に笑い声を響かせるのに、私には少しはにかむような素振りを見せながら、遠慮がちに時々こちらを見るだけであった。なんと純朴なのでありましょうか。かわいらしい。
 それでも共に屋根の下に座っているうちに、通じないながらもなんとなく会話が始まる。実はさっきから気になっていることがある。あれは一体なんだ?私が指差すはるか先には、川の上に対岸まで渡されたワイヤーと、それにぶら下がるようなかっこうになったケージ(檻)がある。もしやあれは、人を運ぶものかい?そう訊ねると、そうそう、とうなずいて彼はまた何故か嬉しそうに微笑むのであった。成る程あれはロープウェイのようなものか。それにしても形が物凄く「檻」だなあ。
 てなことを私が考えていたら、駅の方から制服を着た若い男がやって来た。釣り人くんとは親しいらしく、タバコのやりとりなどしている。
 やがてその制服くんが英語で話しかけてきた。まず「実はアユタヤに行きたかったのだ」と言うと、すかさず「金がないのか?」と聞き返された。そんなに貧乏そうに見えますか。いや違う、と最初からいきさつを説明していると、釣り竿にいきなり魚がかかった気配。2人の男が慌てて釣り竿と格闘を始める様はなかなか面白かった。タイ人が最も好むとされる雷魚ではなく、ヘラブナを小ぶりにしたような、あんまりおいしくなさそうな魚が釣れていた。
 そこへ、私の友人が白いTシャツ姿の若いタイ人の男に連れられてやって来た。目覚めてぼうっとしているところを話しかけられ、「フィッシュ、フィッシュ」とさかんに言われて何だかよくわからないままついて来たらしい。5人でとりとめもなく通じない会話をしていると、列車が近づいて来たのであろう、制服くんが立ち上がって駅に走って行った。慌てて後を追う2人の男。あれ?制服くんはわかるけど、後の2人までもが走って行くのは何故?
 何となく取り残されたような形になってしまった我々は、先程私が目撃した檻型ロープウェイを見に行くことにした。残念ながら運行する時間は終わってしまったようだ。友人はどうしてもその檻が動くところを見たかったらしく、またあわよくば乗りたかったようで、さかんに「どうして起こしてくれなかった」と私を責め立てる。どうしてそこまで乗りたいのだ・・・。
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