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2017年12月24日19:46

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1997タイ旅行【4】名もなき町の思い出(その3)

 我々を降ろしてくれた車掌は、じゃあ元気でな〜、てな感じで陽気にチェンマイ行き快速列車に乗り込み、去って行った。ぽつんと我々が残された駅には、全くと言っていいほど、人の気配がなかった。いるのは数羽のニワトリのみであった。
 先程の無人駅に比べると、確かに大きな駅ではある。駅前広場の向こうには商店街とおぼしきものがあり、殆ど開店休業状態であるとはいえ、屋台も出ていて、オババが暇そうに座っている。線路の反対側に目を移すと、そこには大きな川が悠々と流れ、遠い対岸にもまた民家が見える。町は酷暑を避けるかのように、午睡の中に佇んでいた。
 殆ど活動する人の姿を見ない町に出て、雑貨屋で、どこからともなく現れた寝起き顔の青年からビールを買う。一気に飲み干した友人は、疲れがたまっていたのであろう、駅のベンチに長々と体を横たえると、安らかな寝息をたて始めた。
 私もまた少しまどろんだのであるが、どうにもニワトリの鳴き声がうるさくて本格的な眠りに突入できない。何故駅にニワトリがいるのか?駅で飼っているのか?とにかくやたらめったら元気なニワトリで、真っ昼間だというのにあちこちでコケーコケーと雄叫びをあげ続けているのである。
 町を散策しようと起き上がると、ふと目の端に、川の対岸から渡って来る舟が見えた。渡し船だ。そうだ、あの舟に乗ってみよう。
 木で出来た、小さな船着き場に行ってみる。釣りをする若者が一人。竿を4本も使っている割にはしばらく眺めていても一向に釣れる様子がない。彼は突然現れた異国人のことがやはり気になるのか、チラリチラリとこちらを見はするものの、心はすっかり釣り竿に奪われているようである。
 やがて少しばかりの人を乗せた舟が対岸からゆっくり近づいてきた。いつの間にやって来たのか、私の横に子供たちが立っていて、舟が船着き場にくくりつけられた緩衝用のタイヤをこするかこすらぬかのうちに、素早く乗り込んでゆく。
 私もまた立ち上がって乗ろうかと思ったが、あちら側に渡ったはいいが、その途端に戻る舟が終わってしまったらどうしようと思い(小心者)、結局見送ることにした。舟を操るおばあが、人の良さそうな顔におや?という表情を浮かべてこちらを見たが、やがて私に乗る意志がないことを見て取ったのか、ゆっくりとまた対岸に戻って行った。
 そうして、時間がゆったりと流れて行った。私は舟に乗ることもなく、ただ時折笑いかけてくるおじさんや少女たちに手を振りながら、川と、釣りをする若者を眺めていた。
 思いがけず訪れた静かな時間が、なんだか大変貴重なものに思えた。人々の優しさに触れ続けたタイ旅行。とても幸せだった。
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