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2017年11月12日04:08

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芳根京子への手紙 TBSドラマ「小さな巨人」を観る(第二話まで)

2017年4月、テレビを持たない私は、このドラマを見ることが叶わなかった。今 DVD 化されたものの第一話を観ている。時間を延長してのドラマ枠だったようだが、間延びした印象は全くなく、中身の濃い刑事ドラマであった。
最初の芝署署長三笠(春風亭昇太)との酒席でのやり取り、その直後の飲酒運転の疑いのある者とのトラブルがもとで、左遷される主人公香坂警部(長谷川博己)。思えば腑に落ちないのは、その酒席に小野田捜査一課長が顔を出したこと。陰謀との主張がなされていたが、ここだけを切り取って見る限り、陰謀と決めつけるには根拠が弱すぎる。だが三笠と小野田の意味ありげな視線が何かを暗示しており、また、その後の進行を見ると、私の見解に曇りが現れる。
IT 企業の最大手の社長の誘拐(いにしえのグリコ森永事件を連想させる)。香坂左遷の素因となったトラブルの相手が当事件の被害者の息子中田隆一であった。その男、芝署が追っている社員の自殺事件と絡んでいる人物でもあった。かの人物が誘拐事件の身代金を運ぶ人間として犯人側から指定された。ここまでの展開で、視聴者が何を思うかは明白である。関連のあるはずのない三つの事件に共通する人物がいる。これは大きな事件に発展する。そんな匂いが早くも漂っている。私はこの原作を知らない。が、横山秀夫ドラマの潮流に乗った緻密な刑事ドラマである事は確かである。
芝署の刑事渡部(安田顕)がいい 。おそらく彼のあの汚らしい扮装は盛り場や場末の街を捜査することが多かったせいで、あのような外見に結果としてなってしまったのだろう。ちょっと現在放送中の「刑事ゆがみ」の弓神刑事との共通点を感ずる。生粋の叩き上げの刑事なのだ。
このドラマ、セリフの中に盛んに「匂う」が登場する。刑事の勘をこのように表現しているのだが、刑事は勘だけで動くものではない。必ず裏付けを取るものであり、裏付けが取れない限り動くべきものではない。主人公は、中田隆一が事件とは無関係だと、渡部のここ一ヶ月の捜査だけを根拠に主張するが、渡部一人の意見だけをよりどころとするのでは、あまりに主張としては弱すぎるし、芝署の刑事課長代理に着任前の香坂がするべきではない。彼は分かっていなければならない。こんな末端の捜査官の、根拠の弱い主張に捜査一課を動かすだけの力はないということを。つまり、演出は香坂がこういう言動をするのに十分な、少なくとももうひとつの論拠を用意すべきではなかったか。それをすることによって香坂の敏腕ぶりが強調されるし、捜査一課の腰がいかに重いかも印象づけられる。ここは演出の手落ちと思われる。
駅構内の煙。これだけで犯人側の陽動作戦の匂いを視聴者は感ずる。案の定無線を携帯していない担当捜査官が持ち場を離れた。トランクはまんまと犯人側がせしめた。よくある手口である。だがこの犯人、当誘拐事件の犯人ではなかった。ただの置き引き犯だったのだ。こういうフェイントを用意するところ、なかなか良い。脚本・演出の王道と言ったら良いか。セオリー通りにストーリーが進んでいる。だがただのチャチな置き引き犯が突発的にこんな犯行に及ぶとは考えにくい。
それにしても、冒頭の酒席での香川照之と春風亭昇太の演技に含みがあって、それが警視庁中枢部の陰謀を匂わせ、それを引きずるような発言が後々にも垣間見られ、ドラマを面白くさせている。だが主人公の香坂。キャリア組ではなく、度重なる警視総監賞によって、実力で出世街道を邁進してきた。ただ、長谷川博己のやや一本気な演技に首をかしげるきらいがないではない。刑事は人を疑ってかかる稼業である。だから刑事には性格に複雑さが要求される。事件に一直線に自分の考えをぶつけるような前のめりなやり方は、誤認捜査の原因になるのが関の山であるし、罪もない都民を冤罪事件に巻き込む素因となる。
ただ、香坂警部には深い観察眼と洞察力がある。捜査班全般の動きをつぶさに見ていて、違和感を感じとっていた。刑事としては相当に頭の切れる人物であることがわかる。だが所轄の捜査官という立場では行動に制約がある。何でもできるオールマイティーな役割を担っていない。動けば何かしら波紋が起こり、何かしらの角が立つ。ドラマはそれをひとつひとつこれから取り上げてゆくのであろう。それがぼんやりとではあるが見えてきたような気がする。
しかし、このドラマでの芳根京子は気の毒な役回りである。当初ストーリーテラーの一翼を担う立場であったが、それを十分に果たせるほどの出番もなく、まるで演出上の添え物である。これは彼女の演技どうこうの話ではない。彼女に落ち度はまったくない。物語にとってつけただけの配役にすぎないことがあまりに不憫なのである。
ただ芳根京子さんにヒントを出しておく。同じく蚊帳の外に置かれている人物がいる。香坂警部の妻美沙(市川実日子)である。以前手紙に書きました。市川実日子は出演しただけでその場を実日子ワールドにしてしまうだけの引力のようなものを持っている。この緊張感溢れる刑事ドラマの中で彼女のシーンだけほのぼのとしたのどかな実日子ワールドになっていること、お気づきだろうか。芳根さんのような端役を振られた時、君が何をすべきか。そのヒントが市川実日子さんの演技に隠されているとは思いませんか。君は芳根京子による「三島友里」の世界を演出家と協力の上醸し出せばいい。このドラマでは君に実力が伴わず、それが果たせなかっただけの話だ。君の当面の宿題かもしれない。心に留めおいてくだされば幸いと思います。
この第1話のラスト(渡部が取り押さえられるスローモーションの場面に平井堅の曲が流れるくだり)。他の視聴者も指摘したことと思いますが、演出家は三年B組金八先生の第2シリーズを見ていますね。あのドラマにこれと全く同じ切り口の演出があった。桜中学にやってきた転校生が、元の母校荒川中学に殴り込みをかけた末、逮捕される場面と全く同じなのです。あの時はバックに中島みゆきの曲が流れた。テレビ演出の歴史に残る名場面として、多くの人が記憶しているシーンです。同じTBSドラマです。間違いない。多分これは演出家による視聴者を楽しませるための遊びでしょう。
第一話をざっと観たところでわかるのは、主演の長谷川博己、香川照之、ともにオーバーアクト気味に演じていることである。特に長谷川のその場、その場における演じわけが鮮やか。仕事の時と、家にいる時、態度がまるで違う。仕事の時は取り憑かれたような表情だが、家では憑き物が落ちたように穏やかである。少なくともそれを促しているのは、香川照之と岡田将生であり、三田佳子と市川実日子である。特に二人の女優のぽよよ~んとした演技は緊張感が抜けていて、のどかでのんき。緊張したドラマの「谷間」を演出していて実にいい。「蚊帳の外」には「蚊帳の外」の存在意義があるのだ。
最初に直感した通り、この事件は深い。並み大抵の捜査では終わりそうもない。しかも警視庁上層部の圧力と戦いながらの捜査が予想される。ドラマが拡大深化してゆく予感がプンプン匂っている。面白くなりそうである。

「事件は終わった」と表向きは言いながら、捜査を続けている香坂と渡部の二人。この第2話で登場するキーパーソンは池沢菜穂(吉田羊)。かつては風間エレックの社員であり、中田エレクトロニクスに引き抜かれ、当社の監視システムの管理を任されている。
自殺したと言われる風見京子は、社長中田隆一の恋人である立場を利用して、会社の監視システムをかいくぐり屋上へ出、そこから飛び降りたとされる。が、会社の社員の使うエレベーターは8階までであり、それより上は重役のみが使える専用エレベーターでないと上がれない。捜査の二人の刑事は、やがて監視カメラの映像が細工をされたものであることに気づき、担当の菜穂に目をつける。香坂は山田警部補(岡田将生)に捜査協力するよう頭まで下げて懇願する。
しかし、それにしても、空気感の違う現場を演ずる曲者俳優たちがそれぞれに実力を発揮しており、見せ場作りに貢献している。中でも印象的なのは前述の3人、香川、長谷川、安田。 特に香川の、大向うを唸らせるような演技は大げさで現実味に欠けるものの、このドラマにあっては捜査官の間に漂う特殊な緊張感を醸し出し、視聴者をドラマの緊迫感あふれる世界に強引に引きずり込むことに成功している。いささか無茶であるが効果的。
ただ、これは素人考えにすぎないが、このような高度な企業犯罪を捜査するには、警視庁捜査二課や所轄の捜査課の刑事にはいささか荷が重すぎる。ちょっと見にはわからない手の込んだ隠蔽工作などを暴くには、東京地検特捜部のような専門家に任せた方がいいと思うのだが。ドラマの制作者はどのように考えているのだろうか。
芝署の署長命令によっていったん捜査は頓挫しかかるが、捜査一課長の命により再開される。けれども警視庁捜査一課長にどんな権限があるのか私は知らないが、大企業の手の込んだ揉み消し工作、しかも警察との癒着のある一件を捜査するには、所轄の刑事と捜査二課だけでは、どう考えても捜査には限界があり、行動にも無理が生ずる。無理があるところを無理に暴こうとすれば、警視庁上層部から圧力がかかり揉み消されるのは必至。社会の巨悪の存在をアピールするためにTBSドラマ班はそれを逆手にとって利用しようと考えているようだが、若干無理がある話の持って行き方ではないかという気がしてならない。何度も言うが、やはりここは存分な捜査の可能である東京地検特捜部に捜査を委託するのが妥当だと思う。これは法に疎い私の浅はかな考えだろうか。
しかし中田エレクトロニクスの社内という「現場」で取り調べを行うのは、不自然だし捜査官に不利。そういう場所では企業からの邪魔が入りやすく、捜査に障害が発生しやすい。ドラマだからそのような素人染みた捜査をするのであろうが、視聴者は既に捜査の常識を知っており、演出の嘘を見抜いているから、こういう行きがかり上、行う現場での取り調べという非現実的な刑事ドラマの常套手段は、ドラマ作りの手法としてはもはや効果的とは言えないのではないだろうか。やはり、容疑者池沢菜穂には任意で出頭を願い、警察署の取調室で取り調べを行い、逮捕状を用意するのが妥当。それに、捜査一課の警部が「殺人事件と断定」していたが、殺人事件と断定できる証拠が十分出揃っただろうかと考えてしまう。現場を押さえたわけではない。物的証拠は何もない。殺人事件の疑いで捜査するならまだしも、捜査一課の警部の口から「殺人事件と断定」という言葉が繰り返し言い放たれるというのは、脚本の勇み足に見えて仕方がない。

脚本:丑尾健太郎
脚本協力:八津弘幸 成瀬活雄
演出:田中健太(第一話・第二話)
プロデューサー:伊與田英徳 飯田和孝

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