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2017年10月28日17:12
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燕岳 登山記��
山小屋では、食堂にカフェが併設されている。これも燕山荘の特長のようだ。このカフェでは、季節イベントでケーキバイキングなんかを開催することもあるらしい。ちなみにY氏は登頂前、この小屋に着いて早々に、このカフェでビールを買って、屋外で飲んでいた。
少し単独行動でくつろぎたかった俺は、１人で食堂に併設されているカフェへ。抹茶ラテを注文。600円。カフェに置いてある来訪者ノートを眺めたりしながら、ほっとひと息つき、休憩した。
燕山荘のもう一つの特長が、グッズの充実した売店である。この小屋の人事配属では、売店専門の主任スタッフがいて、その主任が丁寧に客に商品説明をしていた。
特に品揃えが豊富なのがTシャツだったのだが、主任いわく「もう秋で登山シーズンも終わりに近いので、サイズがないデザインもあります」とのこと。俺がカフェでくつろいでいる間に、A氏はTシャツを、Y氏はステンレス製の防熱カップを購入していた様子。
そして、小屋の受付近く（＝売店の向かい）に翌日の天気予報が張り出されていた。どうやら、小屋には気象予報士の資格を持ったスタッフもいるらしく（？）、下界ではなく山頂付近専門の、ざっくり６時間おきの天気予報を発してくれているようだ。
それによると、翌朝６時の天気予報は、「霧のち曇り、時々晴れ」という、何とも微妙なもの。昼12時は「晴れ」とのことだが、山頂からの朝の景色を堪能するには、昼12時に晴れても遅いし…。ただ、いずれにせよ大きく崩れる（≒暴風雨）ということはないようだ。山頂からの眺望は、すでに今日、堪能したわけだし、それはそれで良しとする。
ただ、ではさて、下山コースをどのように取るか、である。登って来た合戦尾根を、ピストンで戻ったのではつまらない。天候が崩れないなら、ピストンではなく、燕岳からさらに北に向かい、北燕岳を経て、東沢登山道を下るコースを取るのは不可能なことではないはず。実際、登山前、中房温泉の登山案内所での登山届には、一応、下山コースに「東沢乗越（＝稜線と東沢登山道との分岐点）経由」と書いて提出してあった。
夕食前、談話テーブルに着き、３人でその旨、ミーティングしていた。すると、近くに座っていた、餓鬼岳（＝北側）から来たというグループの人達がいろいろと情報をくれた。まず懸念されるのは沢の増水である。A氏によれば、登山前の案内所にて、東沢登山道コースは沢が増水していたら危険で通れないと言われた、とのこと。
それについて、餓鬼岳から来た人たちが言うには、「沢は大丈夫。我々が通ったのは違う沢だが、そこが増水はなくて問題なかったのだから、東沢の方も同様のはず」と。また、「今日、東沢登山道から下るという人に結構、遭った」「燕岳のその先も、（花崗岩の）ニョキニョキ感があって良い」と。これらは非常に助かる、有り難い「生の情報」だ。
さらに加えて、雪もない。天候も大きく崩れる様子はない。結果、３人で「なら、北回り（東沢登山道）で行こう！」と決定した。この３人のパーティ登山では、８月の谷川岳に続き、また「登頂してからの、山小屋においての下山コース検討」である。ただし、これは「現地の生の情報をきちんと仕入れた上で動く」という、非常に重要で、かつ、基本的なことでもあるのだ。
ちなみに、東沢登山道は登りで歩いた合戦尾根コースに比べると道が荒れていて、通るのは自己責任ということなのだが、その餓鬼岳から来たグループの人達に言われたのが、「（我々３人が）若いから大丈夫でしょ」と。
この言葉、何気に山では「この先どのコースで進もうか」と決めるための情報収集をしている時に、よく言われることである。実際、６月にくまさんと甲武信ヶ岳に登った時も、頂上でおじさんハイカー複数人にそう言われ、急遽、十文字小屋方面に降りたことがあった。
ただ、俺はすでにアラフィフである。すなわち、若くない。それは自覚している。そして、デブである。それで、「いや、この２人（A氏とY氏）は若いけど、俺だけ若くないんですよ」と答える俺。ていうか、もはやこのテの会話は、個人的「山あるある」になりつつある…。
夕食の時刻となる。メインディッシュはチーズinハンバーグ。正直、雲○山荘の「毎回お決まりの」レトルトハンバーグと違って、美味！ 燕山荘は、飯は美味いし、スタッフのホスピタリティも素晴らしい。登山の初心者で、最初に泊まる小屋の経験がここだったら、その後、他の山小屋では、設備が悪く感じられて泊まれないかもしれない。
そして、夕食後、燕山荘グループのオーナーによる恒例のイベント、スライドを見ながらの「山の話」が始まった。
この山の話が面白かったし、素晴らしかった。テーマを単発で挙げると、冬山登山、低体温症、クマ、ライチョウ、コマクサなどなど…。特に、稜線では、砂地の上には雪は風で飛ばされて積もらず、ハイマツには積もり、風が稜線に当たると物凄く気温が下がるから、冬の時期、ハイマツにとって積雪は、風を防ぐ効果をなす「温かい布団」だという表現には、目から鱗であった。
標高が100m上がると、気温は0.6度下がり（これは「ヤマノススメ」でも言ってた）、さらに「＋風」で気温はがくんと下がるらしい。このオーナーは「山の日（8月17日）」が制定される際、選考委員の１人を担っていたらしいが、「９割方、６月に決まろうというところを、『６月の山（高山）はまだ極寒で危険。６月に山の日を制定したら、６月が山（高山）のベストシーズンであるとの誤解を招く』と言って反対し、８月になった」とのこと。
ただ、個人的には、その道理もわかるが、山といっても世の中には高山ばかりでなく低山もあるわけだし、ましてや、誰もが泊りがけの高山登山に来れるわけではない。例えば高尾山なら６月でも十分登れるだろうし、何より６月に祝日が欲しいものなのだが…。世の働く人々にとって、祝日の由来は大きな問題ではなく、心身の負担を緩和できる「ペース」で仕事を休めるかどうかの方がよっぽど大きいことなのだが。
10月は例年なら雪が降ってもおかしくない時期らしいが、実際にはこの日は、まだ寒くも暑くもなくて、とても快適であった。むしろ、今の時期、まったくの無雪というのは珍しいらしい。やはり温暖化の影響か。おかげでこの時期に冬仕様で体色が白くなるライチョウは、雪がないがゆえに保護色にならず、逆に目立ってしまい、「結構な数の個体が天敵（猛禽類）に食べられたのでは？」と。
さらには、「縦走登山と冬山登山があるのは基本、日本だけ」らしい。なるほど、言われてみれば…カナダあたりでは、ピークハント（登頂）登山自体がさほどメジャーではなく、トレッキングコース歩きがメインで、景色が良いビューポイントや、高山植物が美しく咲く高原がコースのゴールだったりする。これは、登頂しようとすると専門的で本格的なロッククライミングの技術を要する山が多いからだろう。
かつ、オーナーいわく、「冬山（雪山）と岩登りは一度ハマったら止められない」とのことだが…体重のある自分的には岩登りは論外として、冬山に関しても、山スキーは別として、あんまり登るってのはないかな。カナダやアラスカあたりじゃ、冬山はそれだけで「凍死の世界」だし。勿論、エベレストなんかも。
また、「山に来ると、感性が磨かれる。登山中、凄く苦しくて、何でこんなところに来たんだろうと悔むくらいなのに、登頂して、槍ヶ岳の姿を見ると、それまでの苦しさをすっかり忘れて『次はあそこに登りたい』と思ってしまう。山に登ると、心と身体と魂とが洗い清められる」と。
この「心と身体と魂」が清められるということに関して、敢えて（？）「心」と「魂」を分けてあることが、特に俺とA氏にとって「コロンブスの卵」であった。それで、翌日の下山中、「心と魂はどう違う？」といったことを考えながら歩き、思いついたことを休憩中に話す、というようなことをしながら下山した。「英語で言えば、身体はボディとして、心はスピリッツとかメンタル、魂はソウルとかハート、って感じか？」とか「敢えて心と魂を分けて捉えることで見えて来るものがあるってことなんだろうな。何なんだろう、それは」とか。
また、「山ではちょっとした気配りや思いやりを持てるようになる」と。確かに、山小屋では宿泊者は互いに自然と「どこから来たんですか？」から始まって、会話を紡ぐことができる。食事時には、同じテーブルで相席になった、知らない登山者同士が自然に声を掛け合い、ご飯や味噌汁やお茶をよそい合い、調味料を回したりしている。
これは、「山ならでは」のこと。（海でも、同じようなことはなくはなかろうが、海で異性間の知らない人同士が声を掛け合うと、それが自然な所作であっても、妙にナンパ臭を感じるのは俺の偏見だろうか？） そして、そういった気配りや思いやりを持てる人が増えれば、（すなわち、山に登る人が増えれば）、世界が平和になるとは行かないまでも、世の中は今よりは穏便になるんじゃねえかな？と。
燕山荘オーナーは、アルペンホルンの演奏も披露してくれた。上手い下手はわからんが、味のある音色である。そして、多くの宿泊者が、写メを撮っていた。
ところで、この日はチャイニーズ宿泊者が大勢いた。来る時に遭った香港人男性（この人はテント泊）以外にもたくさんいたのだが、オーナーが山の話を初めても、べちゃくちゃと喋っていた。まあ、それについては、話を聞こうにも日本語では意味がわからないだろうし、この「山の話」のイベントのこと自体を知らず、何が始まっているのかわからなかったのかもしれないしから仕方ない（スタッフが説明して席を外させていた）。ただ、歯磨き時に歯磨き粉を使っているのとか見ると、やっぱチャイニーズはマナー悪くて酷いなあ、と。
夜、外に出ると、月が出ていた。同時に、雲が濃い様子も窺えた。山の夜は、身体を清拭したら、早々に入床、就寝である。
続く。
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