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2017年10月18日06:55

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伊戸　シャークスクランブル①

9月22日、千葉県館山市伊戸の「シャーク・スクランブル」へ。これは、餌付けされたサメやエイの大群に揉みくちゃに取り囲まれる、という、非常に特殊なダイビングである。

これを実施しているのは、伊戸ダイビングサービス「BOMMIE」。この日、ガイドダイバーまあさんが、先客２人がいてツアーを出すというので、それに合流することにした。ちなみに先客２人は現役の潜水探索専門の消防士男性２人であった。

ボートに乗り、10分程沖へ移動。東ブイを潜った「沖前根」が、そのシャーク・スクランブルのポイントである。ここから海中を移動することなく、潜ったらそこがポイントらしい。

エントリーすると、下にすぐ、数尾のドチサメやアカエイの姿が確認される。そして、餌付けが始まると…。

餌のカゴが設置されているのだが、その周りをドチザメの大群がわっちゃわっちゃ状態。

しかも、複数のドチザメが「カメラ目線」をくれたw。

ドチザメは、顔が丸く、正面から見るとナマズっぽい。ちなみにドチザメの名前の由来は、日本古来に「ドチ」というスッポンがモデルとされるカメの妖怪がいて、ドチザメの頭部がスッポンの頭部に似てるから…らしいが、同時に、サメ種にしては非常に温厚な性格ゆえに「ドジだから」説もあり。実際、餌付けをするステーションのスタッフが、両手でドチザメの頭を撫で撫ですると、ドチザメは抵抗もせず喜んでいた（？）。

その後も、群集心理もあってか、ドチザメのスクランブルは止まらない。写真を撮っていたら、俺の股間をサメが通った。こんなん、普通だったら、一生に一度だって経験することのない事態だ。ドチザメの身体には、一般客のダイバーも普通に触ることができる。お腹はヌルヌル、背中はヌルヌルのコーティングの下に鮫肌がザラザラ、という感じ。

他にも、デジカメを構える俺の手と顔（目）の間にドチザメがガンガン入って来て通過するので、ファインダーが完全に死角となり、撮影中のモニターチェックができなかったり。また、手が傷つくことのないよう、要手袋装備なのだが、左手の手袋にドチザメの歯が引っ掛かり、そのままドチザメが泳ぐ（急転回できない）ので、自分の手が勝手に動くな、と思ったら、歯に引っ掛かったままの手が引っ張られて行ったり。

また、ドチサメは卵生ではなく胎生。つまり、卵ではなく、直に子どもを産む。一見しただけで妊娠中のドチザメもいたり。

ドチザメは黒かったり、縞模様だったりと、体色や模様が個体各々で様々だった。また、よく見ると顔にキズのあるドチザメの個体もいた。ドチザメ自体は、温厚で飼育しやすいので、多くの水族館で飼われており、その意味では人間にとって観る機会の多いサメなのだが、実際に海の中で観るのはこれが初めて。

本来、１尾だけでも観られたらレア物だと思うのだが、それがこの日、おそらく400尾程度はいたわけだから…やはり、凄い。この日の伊戸は、気温24度で風があり、水温は19度と低めだったのだが、20度を超えるとドチザメの動きがもっと活発になり、多い時で500尾くらいが集まり、人間に対する「アタック」も、より濃いものになるらしい。

実際、海中での移動がほとんど必要ないため、スキル的な点で言えば、ナヴィゲーションはあまり必要ではないが、サメの突進により、水中マスクが外れたり、咥えているレギュレーター（吸気パイプ口）が外れたりすることがあるらしい。

特にサメの突進を受けやすいのは、男性より女性の方で、それは女性の方が髪が長くて、チリチリ、キラキラするので、それに惹かれてサメが突進してくるから、らしい。そのため、落ち着いてマスククリア（水中マスクの中に入った海水を排水する作業）や海中でのマスク着脱のスキルが不可欠である。

また、これだけ物凄いサメによる押し合い、圧し合いで、しかも「にょろにょろ感」があるため、自分が子どもの頃の商店街のお祭りの「どじょう掴み取り」イベントを思い出したりもした。いや、どじょうに比べたら、ずっと巨大なんだけど。

とにかく、レア。ダイビングスポットというよりは、云わば要ダイビング装備の「海中テーマパーク」で、世界中の他のどの海でも、どの水族館でも体験できない、オンリーワンのアトラクションである。

そして、アカエイ。背中に棘と、尾に毒棘を持っており、浅瀬に潜んでいるところを潮干狩り客が踏んづけてしまい、刺されて事故になる例があるという。確か、葛西臨海水族園の周囲の干潮ポイントには、その旨の注意の立札が複数、立てられていた憶えがある。

そんなアカエイだが、この伊戸の海にて、実はドチザメよりも先に餌付け（≒人間の存在）に慣れたのはアカエイの方だという。実際、ダイバーのフィンやBCD（チョッキ）の排気口にくっついた（噛みついた）まま離れないアカエイの個体も、複数、見かけた。アカエイに比べると、ドチザメの方が警戒心が強いというか、今のような大群になるまで長い時間がかかったらしい。

餌の小魚を咥えたまま、俺の顔の前で、腹を見せて上に向かって泳ぐアカエイがいて、その咥えたままのところを写真に撮れた。ちなみに、アカエイがモデルである「あかえいのうお」という妖怪もいるらしい。

ところで、このシャーク・スクランブルの成り立ちは、千葉県館山市（≒房総半島）のダイビング・システムの独特な在り方に由来している。聞いたところによると、館山には（確か）９ヶ所のダイビングポイントがある。そして、それぞれのポイントに、１つのダイビング・ステーション（＝ショップ）が店を構えている。

そして、１つのポイントにて、１つのショップと１つの漁業協同組合が専属で提携し、ダイビングポイントはショップが専属・占有的に開発、整備し、管理しているのだ。これは伊豆にはないシステムであり、例えば日本一のダイバー数が潜るという西伊豆の大瀬崎では、１つのポイントに複数のショップが店を構えて営業している。伊豆には、館山ほどの「ショップ各々の完全な棲み分け」はない。

一方、館山のダイビングショップは、横の繋がりがないわけではなく、特に最近になって「違うポイント同士の横の連携を活発にして行こう」という流れも強めつつあるらしいが、基本、ショップＡが整備、管理をしているポイントで、ショップBが客を連れて行って潜るというのはルール違反なのだそうだ。

かつ、その上で、それぞれのショップが自身の占有するポイントを「どのように開発するか」は「自由」、すなわち、違う言い方をすれば「法律や条例による規制がない」のだという。なので、例えば、海底にロープを張るだとか、目印になる鉄枠を沈めるだとかは、そのポイントを占有するショップが自身の判断で勝手にできる、ということ。

極論を言えば、伊戸にて、その「勝手な判断」により始められたのが「餌付け」であり、その意図的な産物が「シャーク・スクランブル」なのだ。元々、この海域には、ドチザメやアカエイなど、漁業目的にそぐわない（＝市場で売れない）大型魚種が多く棲息していた。そして、それらの大型魚種が漁師の仕掛ける定置網の中に入り、網を破って壊してしまったり、それにより獲物の魚を取り逃がしてしまう、という事態が続いていて、地元の漁協は頭を悩ませていたのだという。

それを、伊戸の「沖前根」にて餌付けをすることで、そういった大型魚種が定置網の方に行かず、沖前根に集まるようにしたのだという。そして、そこをダイビングポイントにして、ショップが客を連れて潜ることで、漁協もショップも助かる（利益を得る）という、win-winの関係になったのだという。このポイントには、そういった一応の「大儀」があるのだ。

尤も、大儀と言っても、それはあくまで人間側の都合に限られたものであり、自然界側の都合は無視されている。実際、自然海洋生物への餌付けの是非…というか、批判的な意見が巷に存在するであろうことは容易に想像がつく。

ただ、餌付けを始めても、すぐに客を連れて潜れる状態になったわけではなく、ようやく商売に使えるようになり、話題になったのは２～３年程前のことだったらしい。そして、それを規制する法律も条例もない以上、このシャークスクランブルは「企業努力の賜物」であり、無関係の他者にとやかく言われる筋合いではない、という一面も間違いなく存在すると言えよう。

今のところ、餌付けの「餌」だけでドチザメやアカエイが不自然に多量に増えた、とは考えにくく、元々海に散らばって生きていた大型魚種が、餌付けにより、こぞって沖前根に集まるようになったものと思われる。すなわち、あくまで寄せているだけであって、飼育や養殖をしているわけではない、という「態」だ。

それに、漁師にだって、「生活がかかっている」わけだし、敢えて飛躍したことを言うなら、豊漁でなければ、我々消費者の元に食用の魚が届きづらくなる、ということも言えよう。この「餌付け」の良し悪しは、一元的に言えるものではない。ただ、実際に体験した上での、個人的な意見としては、「（こういうポイントがある以上）一度は体験する価値あり」かな、と。

ドチザメは大群で、そして、アカエイは数多く現れるこのポイントだが、それ以外の超大型魚種もちらほらと現れる。

クエ。鍋に入れたら美味な、高級食用魚である。かなり巨大なサイズもいて、目立つ個体には名前がつけられているらしい。クエは、若いうちの方がまだら模様がハッキリしており、大きくなると体色が薄くなるようだ。

まだら模様の頃のクエは、他の南洋で観たマダラハタ等と見た目の区別がつかない。そして、巨大なハタは、ダビングステーションのスタッフによる餌付けが始まっても、がっつくことなく、その周囲を威風堂々といった感じでゆっくり泳ぎ回っている。ただ、時々本気を出して、餌を狙いに来ると、その「圧」ゆえに他の魚が道を開ける、といった感じであった。

コブダイ。ダイビングで観られるコブダイとしては、佐渡の「弁慶」が有名だが、俺自身、観るのは初めて。こちらもデカイ。

イシダイ（左画像）、そして、ハマフエフキ（右画像）。イシダイは釣り対象としてメジャーな魚種。ハマフエフキは、ポナペでスピアフィッシングで捕えられたのを陸で見たことがあるが、その時も凄くデカかった。

どの魚種も、ドチザメやアカエイに劣らずデカくて、存在感大！　そして、どれも美味そう…。ドチザメやアカエイと違って、これらの大型魚種はきっと定置網の中に入っても、漁師としては嬉しい、有り難い魚種なのだろうな、と。

続く。

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