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2017年07月21日20:15

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映画 ヒトラーへの285枚の葉書

”ヒトラーへの285枚の葉書”

恒例のドイツ好きの父と映画。今作はナチス政権下、息子が戦死してしまった夫婦の
ささやかな抵抗がテーマの作品。

1940年6月、戦勝ムードに沸くベルリンで質素に暮らす労働者階級の夫婦オットーとアンナ。
彼らのもとに一通の封書が届く。それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという残酷な知らせ。心のよりどころを失った二人は悲しみのどん底に沈むが、ある日、ペンを握り締めたオットーは
「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」と怒りのメッセージを
ポストカードに記し、それをそっと街中に置いた。
ささやかな活動を繰り返すことで魂が解放されるのを感じる二人。
だが、それを嗅ぎ付けたゲシュタポの猛捜査が夫婦に迫りつつあった―。

ナチスやヒトラー、戦争や暴力を批判するカードを街中に置くという
一見ささやかな抵抗ですが当時の戦勝ムードの中では見つかれば確実に大罪です。
しかし最愛の息子を亡くした夫婦は自分たちの命を顧みずその抵抗を実行に移します。
その気高さ、そして最愛の人を亡くした悲しみがひしひしと伝わってくる映画でした。

カードを置いても当然ながら何の反応もない(メッセージを次に回せ!と書いているが)、
それでもささやかな達成感を共有し、ボロを出さないように
3年間にわたり冷静に行動し続けた二人。
一方でナチスにプレッシャーを受けながら犯人を追い詰めようとする警部の焦り。
両者の動きが静かな緊張感を持って描かれ、結末はある程度想像できましたが、
それでもささやかな奇跡を願って、物語の行方に引き込まれていきます。

権力者への抵抗というテーマで行くと”白バラの祈り”という映画(大学構内で
ナチスを批判するビラを撒いた学生が裁判にかけられた数日間の話)がありましたが、
この映画にはそこに夫婦の絆の再生という素晴らしいサイドストーリーがありました。
無口で感情をあまり表さない夫とそんな夫に何も期待しなくなった妻。
ところが妻はささやかな抵抗を始め出した夫の男らしを再認識し、
夫も自分の危険な仕事を理解し協力し、行動的になっていく妻を再び愛おしく感じ始める。
終盤の裁判所の被告席で隣り合わせになるシーンでは、
抵抗運動に成果はなかったけど、
この夫婦にとってはすごく意味のある、そして悔いのない行動だったと感動します。

特筆すべきは夫役の演技、終始仏頂面なんですが、
その表情にすごく強い意志が感じられ素晴らしかったです。
目つきは笑っていないのに、妻への愛が溢れているように見えるのが本当に見事。

この映画では本来死ななくても良い人たちが、
これから起こる未来(捕まって拷問)に絶望して死を選びます。
ゲシュタポの警部でさえナチスの高官から捜査の遅れで顔が歪むほど殴られます。
結局、愚かな政府が支配する国では、警察も公平ではなく行政は歪められ真実を隠し、
市民には外人(ユダヤ人)や政府批判者の密告を奨励するわけです。
ほんと絶望的な世の中。しかし、それでも生きてささやかな抵抗をしなければ、なのです。
夫婦の死刑(なんとギロチン)の直前に警部が夫に面会しますが、
その後に及んでもカードとペンをくれと言った、
ささやかだけど、死んでも続けるぞというその意志の強さに鳥肌が立ちました。

結局、285枚のカードのうち18枚以外はゲシュタポによって、
市民に広まることなく回収されました。
その267枚を読んだ全て読んでいつのまにか感化された警部の最後の行動は
よくやったと物足りんの半々。
逃げないで、意志を継いで欲しかった。あれでは中途半端。
あと、回収されなかった18枚を読んで、共鳴してくれた人が描かれていたら
あの夫婦も少しは報われていたのにとも思いました。

この夫婦は実在していて、戦後すぐにこの原作が書かれました。
タイトルは”ALONE IN BERLIN”。
なのでヒトラーへの285通の葉書”は超訳です。
ヒトラーへというよりは思いが届かなかった一般市民への葉書の方が正しいかと。
自分たちの意見が届かずに”ALONE”だった夫婦の物語だから。
昨今のドイツ映画は”帰ってきたヒトラー”や”ハンナ・アーレント”、”顔のないヒトラー”など、
ヒトラーだけが悪いのでなく彼を支持した国民、命令を鵜呑みした軍、政府、行政
物を言わなかった、見て見ぬ振りをした人全てが悪いという反省の映画なのです。

今の日本を見てもささやかな相談段階での共謀罪の導入や
政府や行政の高官による、あった書類ががないとか言ったことを言ってないという
あからさまな真実隠しの様子を見ていると、
歴史に何も学んでいないんだなって思ってしまいます。
そういう意味でもこの夫婦の生き様をたくさんの人に見てもらいたいと思います。

嬉しいことに、平日の昼の回、割引デーではありましたが満員でした。
勇気ある夫婦を孤独にしてはいけない。


https://www.youtube.com/watch?v=bjbyVkzxg7g


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