稲田大臣は、憲法・自衛隊法・公職選挙法の、いずれにも違反していない
稲田防衛大臣は６月２７日夜、都議会議員選挙の自民党候補への応援演説で、「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたいと思っているところでございます」と発言し、批判されて、同日深夜、発言を撤回した。野党は例によって、大臣辞任を要求している。与党にもこれを問題視する声があるそうだ。
ところで、この発言のどこが問題なのか、と誰かが言い出すだろうと思っていたが、フェイスブックで福田則正という方が発言した。
【稲田大臣は国会議員であり、防衛大臣である。防衛省の職員ではない。全ての総理大臣・他の大臣も、選挙演説を行ってきた。憲法・自衛隊法・公職選挙法にも違反していない。】
「稲田大臣は国会議員であり、防衛大臣である。防衛省の職員ではない」というのは全くそのとおりで、政治家が防衛大臣になったら、「自衛官」になるわけではない。同様に内閣総理大臣は「三軍の長」だが、だからといって総理大臣になった人が「自衛官」になるわけではないのと同じである。
テレビは自衛隊法の自衛官についての規定を持ち出して稲田大臣の発言の批判の根拠に据えていたが、それならば、稲田大臣の発言の内容を批判するのではなく、稲田大臣が選挙の応援に出かけたことそのものを批判しなければならないはずだ。ところが、福田さんがおっしゃるとおり、【今までの、全ての総理大臣も、他の大臣も、選挙演説を行ってきた】のであって、民主党政権のもとでも、何の違いもない。だから、今回も稲田大臣が選挙の応援演説に出かけたこと自体は誰も批判しない。これはおかしい。
つまり、テレビや新聞の批判なるものはタメにする批判であって、そういうものにダマされてはならないのだ。
なぜ総理大臣や大臣が特定の政党の選挙演説をしてよいかというと、日本は政党制民主主義をとっているからである。特定の政党が政権を執り、その政党の党員多数を入閣させて内閣を組織する。政党の側からいえば、政党には綱領と政策があり、政策の実現のために政権を執り、内閣を組織するのである。だから、総理大臣や大臣が自分たちの政党の応援をすることは当然のこととして認められるのである。これに対し、「自衛官」は街頭に立って特定政党のための選挙運動はできない。この区別が分からないか、誤魔化している詐欺的報道には決してダマされてはならない。
稲田大臣が深夜に発言を撤回したのは、菅官房長官の指示によるものだった。このところ、自民党は、野党や反日メディアがつくった理屈にならない屁理屈に堂々と反論するのではなく、野党やメディアのつくったインチキな論理に飲み込まれてしまうケースが多すぎる。加計問題だって、何一つ問題にもならないことを問題であるかのようにしてしまったのは、自民党とその政権の対応の拙劣さのためである。
加計学園の問題では、政党人がいったん総理大臣になったら、あらゆる政策案件に総理大臣として口出ししてはいけないかのような前提がいつの間にかつくられ、自民党やその政権すら、何かその前提で批判をかわそうとしている。これが国民に、「後ろ暗いところがあるに違いない」と思わせている原因であり、反日メディアの作戦にマンマと乗せられているのである。
そもそも考えてもみよう。総理大臣が政策の実行過程である行政に何の口出しもできないのだとしたら、一体、人は何のために総理大臣になるのか。総理大臣は選挙で選ばれた議員によって選ばれて総理大臣になっているのだから、その行動には正統性があり、自己の信念に基づく政策の執行にリーダーシップを発揮してもらわなければ困る。
大学の設置の認可は、�，修譴�公益にかなうかどうか、�⊆蠡海�に一貫性・公平性が貫かれているか、だけが問題であって、認可を受けた大学の経営者が総理の友達であろうがなかろうが、何の問題もない。そういう友達がいたからこそ、総理はその分野の従来の行政の問題点を知るにいたったのかも知れない。その意味で政治家がいろいろな人脈を持っていることは悪いことではなく、望ましいことなのだ。
地方行政についても同じことがいえる。まともな首長は教育の大切さをといて、その政策の実現のために選挙で住民に支持されて首長になる。ところが、当選して市長室に入ったとたん、教育について何か言うと、「それは政治介入だ」と議会で共産党が批判する。こういう馬鹿げた理屈に屈服してきたのが中央、地方を問わず、日本の政治の現実だ。その一方で、共産党が影響力を持っている教員の世界では、法律で禁止されている教員の中立性を堂々と破って選挙活動をし、自民党は長年にわたってそれを知りながら、見て見ぬ振りをしてきたのである。
こうなった原因の一つは、「公民」で国家の本質や国家の仕組みをキチンと教えないできたことにある。公民教育の貧困のためだと言えるのだが、さらにその背景には、国家学といった学問分野が日本で正しく確立してこなかったことに根本的な原因があるのかも知れない。
以下は蛇足だが、一言する。稲田大臣の発言内容についてだ。
「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたいと思っているところでございます」
これはやはり適切さを欠く発言だ。これを、他の省庁、例えば「文科省」に置き換えて文科大臣の発言として思考実験してみれば、そのおかしさは明らかだ。
「文科省、文科行政官、文科大臣、自民党としてもお願いしたいと思っているところでございます」
「文科行政官」のところには、「全国の教員」が入るのかも知れない。いずれにせよ、文科大臣が「文科省」全体の意向を代弁して自民党の候補に投票をお願いするなど考えられない。稲田大臣は何でこんなことを言ってしまったのか。
ここで、稲田発言のもう一つの側面に注意を向けなければならない。稲田発言は、自衛隊がお世話になっている地元への「ご挨拶」という側面があるからだ。例えば、日本で起こった地震に多額の寄付を寄せて下さった国に招かれた総理大臣が、「日本国民を代表してお礼を申し上げます」ということは許される。ごく普通のことである。どうしてか。それは儀礼の言葉だからだ。
稲田発言も、練馬区で自衛隊がお世話になっているとして、それに対するお礼の言葉を述べようという意識があったようだ。ご本人もそのような趣旨のことを述べているようだ。慣例的に許される儀礼の言葉と、激しい政治闘争の渦の中にある選挙戦が混同されたことに間違いのもとがあったとも言える。
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