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2017年06月03日22:03

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引き返すべきだったのでしょうが

「鯨分限」という小説を思い出しました。
伊藤潤著、光文社。

現在の和歌山県太地町で、捕鯨が人々の生業であった頃の話。太地町といえば今もイルカ漁で耳にすることがある地名です。
いかにも豪快で勇壮なクジラ漁の物語かと思いきや、実在の人物だと言う漁師の棟梁の、苦悩また苦悩の物語でした。

もう図書館に返してしまったので記憶が曖昧ですが、不漁続きの太地の沖に、久しぶりの鯨が現れます。
出漁の判断は湾を望む山腹の見張り所と連携するのだそうで、獲物との距離、天候急変の兆しなどを見張り所で見極めて「○」または「×」の旗を揚げ、船団はその指示に従う。

その日、見張り所から沖の荒れ具合を見た棟梁は「×」の旗を揚げさせました。
ところが、これを仕留めれば村の暮らしはどんなにか…と諦めきれなかったものか、老船頭率いる船団は引き返さず、嵐の海で遭難してしまった。

各方面に捜索への協力依頼、火の車の財政難のなかその費用の工面に奔走する傍ら、棟梁は家族を失った村の者たちから、それはそれは責め立てられます。
なぜ行かせた、危険を承知で欲をかいて「○」の旗を揚げたんだろう。

しかし棟梁は真相を知る者には固く口止めをし、自らも決して語らない。
船団が「×」の旗に従わなかったことを話してしまえば、責任者だった老船頭の家族はどうなる、と。

人々の上に立つとはなんとしんどいことか。
棟梁は信念を貫いたのですが、しかしこの苦悩はあまりに深すぎる。
どうしたって帰ってこない人は帰ってこないし、悔やんでも悔やみきれない。


■責任教諭「生徒に進みたいと言われ」 那須の雪崩事故
(朝日新聞デジタル - 06月03日 18:48)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4603778
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