長い間、山里から出たことがないおじいさんがいました。
ある日、おじいさんが家族に言いました。
「生きているうちに、一度、京の見物をしたいもんじゃ」
すると、家族は
お金を工面して、おじいさんを京都見物に出してやる事にしたのです。
「いいかい、おじいさん。京の町は、どれも家のつくりが
似ていますからね。迷子にならないよう、宿を出る時には、ちゃんとめじるしをつけていきなされや」
「わかった。わかった。心配いらんわい」
さて、京の町の宿
についたおじいさんは、さっそく宿のおかみさん
に尋ねました。
「この近くで、見物するようなところはないかのう?」
「そうどすねえ。近くに新しい
きれいな橋がかかりました。たいそうな評判でございますえ〜。お客さんも、ごらんになられませ」
そこでおじいさん、橋の見物に出かける事にしました。
「そうそう、めじるしを忘れてはいかんのう。え―と、何かめじるしになる物は」
外に出てながめると、宿屋の庭先に、大きな一匹の犬が
寝ています。
「よし、あの犬をめじるしにすればよい。『庭先に、大きな犬が寝そべっている宿屋
』。これを覚えておけば、間違いなく帰れるだろう」
おじいさんは、橋を見物しました。ついつい感心しているうちに、
日が暮れてきました。
「さて、宿屋に戻って、
晩御飯をいただこう
」
おじいさんは、庭先で犬が寝そべっている宿屋を探しましたが、
どこを探しても見つかりません。
犬は、どこかへ遊びに行ったのでしょう。
「お〜い、どこじゃ〜?犬が寝そべっている宿屋はどこじゃ〜?」
おじいさんは
夜通し探し続けましたが、ついに宿屋を見つける事が出来ずに山里へ帰ってしまいました。
ちゃんちゃん
(15.4.5)
・・・これは、どうやら家族
のワナにはまったのかも
《これにこりて、京都見物した〜いとは言わんじゃろ
金の工面もたいへんじゃからのんのん
》
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