限界を感じてからでは遅い

初めて福祉課に相談したのは、25歳の頃だった。
実母が統合失調症を発症したのは、私が9歳。
幻聴があり、窓から近所に向かって怒鳴る。父も親戚も近所の人達も「おまえの母親はキチガイだ」と私に言うが、治療を勧める人はいなかった。
父は家に寄りつかなくなり、今の再婚した妻と不倫関係（彼女の写真を持ち歩いていた）にあったようだが、母が家を飛び出すまで離婚の機会を待っていたようだ。

母は私に過干渉とネグレクトを繰り返し、私も「変な娘」になったが、何とか仕事をして平穏ではない「母子家庭」が続く。

母が統合失調症（分裂病）だと判ってきたのは18歳。
現在のようなネットの情報は得られないから、何冊も精神病関連の本を読む。
娘の義務として「家族の愛情と治療が必要」と心に念じ、離婚した父や親戚に相談するが「関われない。家を出ろ」としか言われない。

「共依存」と言われようが、私は母を愛していた。家族は母しかいないから。

25歳でやっと新聞で福祉情報を得て、電話すると…
「診断されていなければ、受け付けない」としか言われなかった。
分裂病は進行するので、その頃はすでに会話も出来ない恐慌状態を何度も経験していた。
母の健康保険証を何とか借りて（被害妄想があるので簡単には出さない）精神科へ相談に行くと安定剤をくれたが「本人を連れて来ないと薬は出さない」と言われる。

精神病者に「あなたはキチガイだから精神科で治療しましょう」と言って、納得するか？
するなら20年近くも悩まなかった。説得できないので、家出して精神科病院のある町にアパートを借りて、母が来るのを待った。
母が来なければ逃げるつもりもあったが、1ヶ月で居所を突き止めてやって来た。
母には「私は鬱病と診断されたので、精神科で医師と話して欲しい」と騙し、念願叶ってやっと精神科で診断を受けられた。

「ああ、これで治療へ向かえる」と思ったのも束の間、医師から言われたのは「あなた（私）では母の後見になれない、親族の男性を連れて来るように」だった。
そこで母とは疎遠になっている叔父に頼み込み医師と面談して貰うが「関わりたくない、お前も関わらなければいい」と、拒絶されるのみ。

20年掛けて解ったのは、「私だけが母を治療したいと願っているのに、治療させては貰えない」事だけだった。



「介護に悩み」娘殺害 母逮捕
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=4487178


福祉のお世話になったのは、それから更に10年後。
結婚して同居した義母が重度障害者でリハビリはしていたが、子どもが2人生まれた後に骨折し、かなり介護が困難になったので、福祉に相談した。
相談から2年後にヘルパーが派遣されたが、その間、何をしていたか思い出せない…
義母の知人を頼って、週一度2時間だけ助けて貰ったかな？
次男が2歳で小児喘息になり、月一度の割合で発作を起こした。私も不眠が続くので聴覚過敏になり、母のように分裂病になると不安になったので、何度も福祉課へ電話した。
それでやっと、週に１度介護ヘルパーが派遣されるようになった。
それから半年後、偶然だが介護保険制度が始まり、ヘルパー派遣が週2度になった。
そんな状況で、恥ずかしくもうっかり妊娠で3人目を産んだ。

更に義母が大腸癌になって、手術後歩行困難…つまり寝たきりになったので、やっと老健に短期入所が認められた。
手術入院後についてソーシャルワーカーが訪問した時、私が実母の現状と3人の育児について悲鳴を上げ泣きながら話したので、入所待機者が200人もいるのに認可が下りたのだった。
それまでも、現状については何度も話していたのに、なるべく冷静な態度でいたものだから、聞き流されていたらしい…7年間も。

真っ当な方法では、「福祉の手」は死にそうになるか、感情的にならないと入らない。
しかし、書類上の手続きが出来る知識と調査が入った時の演技力で、簡単に助成を受ける事も出来る…違法でも悪賢い方が受けやすいという事。
それで、本当に困っていても福祉は簡単に「受ける方法」は教えてくれない。

一番良い方法は「自分は不幸？」と感じたら、最悪の状況を想定して、早目に手回しすること。情報が得やすくなったので、その辺は有難い。
逃げても良し、闘うも良しなんだ、日本の福祉って。

長く介護をしている人は、諦めと失意から感情を出せない。
限界を訴えた時は、限界を超えてる事を福祉側に知って欲しい。