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2016年12月24日21:50

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第三トナカイ学園

今日僕はとある男の子の監査を行なっている。
勿論良い子でいるかどうかの監査であって、この監査結果次第で彼の今年のクリスマスは哀しい末路となる可能性もある。
そう思うと少しだけ寂しい仕事だと思う。だって僕が手を抜いて「良い子でした」と報告すればあの男の子は明日の朝プレゼントを貰えるし、笑顔になる。年の瀬のこの時期、涙で終わるのか笑顔で終わるのか、数年しか生きていない彼ら子供達にとっては非常に大きな事案だと知っているからだ。

僕も今年で3歳になった。トナカイである。

トナカイは2歳で学校に入る。学校というのは勿論サンタクロースの助手になるための養成学校だ。
ソリの引き方は勿論、主人であるサンタクロースが効率よくプレゼントを配り終えることができるようきめ細かいサポートが必須だから、3年間養成学校に入るのが習わしだ。
僕は名門である日本第三トナカイ学園の二年生。今年から実習が始まった。
ソリで夜空を走る場合は最低でも5頭編成だから、個人にかかる負担、責任も少なくてなんとかなった。僕は一番初心者だから後ろから2番目の位置だったし、迷惑かけずに出来たんだと思う。
いつか先輩たちのように先頭を走りたいけれど、星々やツリーの枝なんかを上手にすり抜けて、流れ星のように徐々に加速しながら夜空を上方に滑空していく技術が求められる。
すごく格好良くて憧れるけれど、まだ僕には難しい。

また、実習の中には実際にクリスマスのプレゼントの願い事を収集する仕事もある。これは郵便配達員に近くて、子供達が寝ている間に描いた夢の手紙をポストに入れてくれるから、それを収集してサンタの国へ運ぶ仕事だ。
夜更かししている子なんかだと、その分ポストに入れるのが遅くなって集めるのに時間がかかってしまう。時間がかかるとサンタの国へ通じる道も徐々に凍っていくため、本当に命がけの仕事になる。この間同級生のトナカイがその日中に帰ってこれなくて、熱を出してしまった。因みに僕らトナカイが出した熱は人間界に降りていって、流行するみたい。インフルなんとかって言ってたと記憶する。

そして次の仕事が手紙に書かれていたプレゼントを調達する作業だ。これは全国の玩具メーカーと提携しているから比較的ルーチン作業に近かったりするからいいんだけど、その分正確さを求められるから正直苦手だ。
あと、たまに市販されていない「ママの手作りクッキー」とか、「単身赴任のパパに会いたい」なんていう願い事がある。願いを聞くか聞かないかはサンタ次第なのだが、サンタの評価も難易度の高い仕事を達成したかどうかがあるみたいで、頑張るサンタもいる。
まぁそのとばっちりが我々トナカイに下請けされてくるわけで。お願いだからトイ○ザラスとかに売っているものを願ってほしい。

また、実はトナカイの懐事情の近年芳しくない。なので、地域ごとに予算が決められていて、子供達全員にはプレゼントは実は配れないんだと言うことになっている。
貰える子、貰えない子の基準はずばり「良い子」かどうかとされていて、「良い子チェック」をする決まりなんだけど、これは真面目にやったらいいのかどうか分からない作業だ。
例えば、パパやママの言うことを聞かない子や、お友達のものを取ったり、叩いたりは勿論、お片付けをしない、歯を磨かないなどなど減点要素は星の数ほどある。クリスマスの1週間程前から子供達の監査をするのだけど、なかなか難しい。
だって子供達が言うことを聞かない理由は実はその周りの大人たちに原因があることも多いから。一概に良い子じゃないと判断することは難しい。
だから適当な理由を付けて「○」を付けるのが一般的だ。まず「×」は付かない。そう、この実習の前までは思っていた。だけど、昨年首席で卒業した憧れの先輩が実は毎年「×」を数人付けていたと聞いたのである。しかも、その「×」を付けたことで、むしろ高い評価を受けていたという。評価とはトナカイ学園の評価ではなく、当局たるサンタ連からの評価だ。無論その評価は世間の絶対評価に通じる。
このことをこの実習の間中、僕は考え続けていた。

その男の子のことを朝から僕は監視していた。今日はクリスマスイブ。監査結果は本日中に出さなければいけない。幸い本日は土曜日でご両親ともに在宅のようだ。3歳のその男の子は、クリスマスプレゼントのことを気にしている様子だった。ご両親も「良い子にしていないとサンタさんプレゼントくれないよ」と随分我々をダシにした躾をしている模様。

さて。

※このお話はフィクションですか...?

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