２２日は「機動戦士ガンダム THE ORIGIN �� 運命の前夜」
「カラテ･キル」、
２３日は「pk ピーケイ」、
２４日は「エル･クラン」
「聖の青春」、
２５日は「胸騒ぎのシチリア」
「ダゲレオタイプの女」、
２６日は「シークレット･オブ･モンスター」
「地獄に堕ちた野郎ども」、
２７日は「ジャニス リトル･ガール･ブルー」
「ブルーに生まれついて」、
２８日は「この世界の片隅に」（２回目）
１日は 「五日物語−３つの王国と３人の女−」 を観に行きました。
あんまり溜まってるので、趣向を変えて
今日は逆からやってみようかな。
「五日物語−３つの王国と３人の女−」 ’15 (伊･仏)
世界最初のおとぎ話「ペンタメローネ(五日物語)」は
17世紀初頭ナポリで書かれたらしい。
その民話集から３つの物語が語られる。
女の欲望とその末路が不条理な残酷を招くさまが
華麗な画になっている。
美術・衣装が素晴らしいし
海獣や魔物の造形や森や水辺や砂漠のロケーションもいい。
おとぎ話の王さまや女王さまや王子さまや王女さまが登場するが
お子さま向けではなく
緻密に構築された画はため息が出る美しさだ。
しかも
子を宿す欲望，若さと美貌への妄執，幸福な結婚の熱望…
に囚われた３人の女たちの物語は、
不気味で奇妙で滑稽で情けなくも恥ずかしくて可笑しくて
おとぎ話が孕む人間の属性の身も蓋もない正しさに
背筋が寒くなる。
欲望の成就には魔術や魔物が介在するが
現在の不妊医療や美容整形や婚活ビジネスこそ
魔術なんじゃないか…？
驚くのは監督が『ゴモラ』のマッテオ･ガローネなのだ！
あの犯罪組織カモッラを扱った戦慄のリアリズム映画を撮った人が
ターセム･シンのごとき画の美麗を提供しているのだった。
「この世界の片隅に」
はちゃんと感想を書きたい。
公開初日12日のレイトに行ったらパンフは既に売り切れていた。
仕方がないので「ユリイカ 特集こうの史代」を読んでいた。
（これは読み応えがあるのでお薦め！）
24日に「エル･クラン」に行った時に入荷していたので購入できたが、
28日２回目を観に行った時には再び完売になっていた。
原作(全３巻)も所によっては手に入りにくくなっているらしい。
映画を観た人が購入しているのだろう。
主人公と同じ９０代の人が観ても１０代の高校生が観ても
きっと笑って きっと胸を熱くするだろう
優れたアニメなのだ。観てね！
「ブルーに生まれついて」 ’15 (米･加･英)
監督･脚本：ロバート･パドロー
ｍ：イーサン･ホーク
ｆ ：カルメン･イジョゴ
チェット･ベイカーの映画だが
その生涯を俯瞰する伝記映画ではなくて
ケンカで前歯を折られ（トランペットを）吹けなくなって
ガソリンスタンドで働いていた時期にフォーカスした物語。
薬物依存と母なる恋人と音楽がお話を展開する。
ヘロインをやらないと吹けない―
という呪縛から逃れられぬ哀しい才能が
途轍もなく寂しいチェット･ベイカーを語り出す。
ミューズに愛された天才は現実世界では哀しいくらいダメ男…
ほとんど定型のようなミュージシャン転落譚を
定型のままに語りながら
ダメを彼の色気や天才に昇華してみせる
イーサン･ホークの仕事がすごい。
「ジャニス リトル･ガール･ブルー」 ’15 (米)
監督：エイミー･バーグ
ジャニス･ジョプリンのドキュメンタリー。
この人もまた薬物常用者でヘロインで命を落としている。
洋楽を聴くようになりアーティストの名前を覚える頃には
亡くなってしまっていたが、
“ロックの女王”はあまりにも有名だし
ベット･ミドラー主演『ローズ』(’79)のモデルということで
曲も歌唱も姿も親しい。
ああ、この人
容姿のコンプレクスに苦しむことをやめられなかった
シャイで賢い だから傷つきやすい女の子だったんだなぁ…。
もっとわがままで
もっとイヤラシい女として生きられたのに…
この人は“愛されない私”と真摯に向き合い
本気で悩んで 本気で歌った。
寂しい！淋しい！と。
愛して！愛して！と。
時代や世界にこんなに愛され続けていることを知らずに死んでしまった
永遠の２７歳。
「地獄に堕ちた野郎ども」 ’15 (米)
監督･撮影･編集･製作：ウェス･オーショスキ
「セックス･ピストルズ」「ザ･クラッシュ」に並ぶパンクバンド
「ダムド」に取材したドキュメンタリー。
複雑なメンバー交代を経て
現在も活動するバンドを俯瞰するのだが、
興味も知識もない身には正直
次々に登場するメンバーやその言を消化するのに手いっぱい。
ただ長い活動を追い続けると
新旧メンバー間の確執というか…こいつら仲悪いじゃん！(笑)
その辺りが劇的でなくじわっと眺め渡せる…
そこに意味がある映画なんじゃないか？
「シークレット･オブ･モンスター」 ’15 (英･ﾊﾝｶﾞﾘｰ･仏)
監督：ブラディ･コーベット 脚本：ブラディ･コーベット，モナ･ファストボルド
音楽：スコット･ウォーカー
ｍ：トム･スウィート，リアム･カニンガム，ロバート･パティンソン
ｆ ：ベレニス･ベジョ，ステイシー･マーティン，ヨランド･モロー
サルトル「一指導者の幼年時代」に着想を得た―らしいが
ムッソリーニの子ども時代のエピソードをベースに
“独裁者誕生以前”を語る仕様である。
パリ講和会議開催中のフランスに滞在する
アメリカ人高官とその妻と息子が描かれるのだが、
ヴェルサイユ体制がドイツに強いた苛酷がヒトラーを産んだ図式を読む映画は
チラシの“戦慄の謎に迫る心理パズルミステリー”とは思えず
“戦慄する”のは
スコット･ウォーカーの音楽が強制する
“あの時代の不穏”なのではないか？
少年プレスコットの世界に対する不満は
将来の独裁者を臭わす“何か”であるというより
“あの時代の不穏”の中に美少年を置くことで
扱いにくい子どもの不気味を浮上させているにすぎない。
少年プレスコットについて確かなことは
それこそ“衝撃のラスト”以外にはないのだから。
そして
その“あの時代の不穏”の醸成は見事すぎるほど見事に成功していて
スコット･ウォーカーの音楽を聴くためだけにでも
映画を観る価値はある！と言ってしまいたいほどである。
（音楽を聴くために２回目を観たい！）
クビにされる家政婦ヨランド･モローの
“ご一家を破滅させることに残りの人生を捧げます”
という呪詛のようなセリフに明らかな
眠っていた薄気味悪さを炉床から火搔き棒で掻き起こされるような
不快を体験させる映画なのだ。
体感せよ！
にしても
ロバート･パティンソンの出演作の外れのなさはどうだ！
「ダゲレオタイプの女」 ’16 (仏･ﾍﾞﾙｷﾞｰ･日)
監督･脚本：黒沢清
ｍ：タハール･ラヒム，オリヴィエ･グルメ，マチュー･アマルリック
ｆ ：コンスタンス･ルソー，ヴァレリ･シビラ
黒沢清が初めて海外で撮った作品。
曇天の空にクレーンが覗く駅の風景…
その最初のカットから魅了されるが、
郊外の屋敷で古い撮影法（ダゲレオタイプ）で対象を撮る写真家の元へ
アシスタントとして就労することになった男の物語は
いつもの幽霊譚で、
青いドレスの女が螺旋構造の階段から２階を滑るように上がって行く
見事な妖しさと
その階段下の扉が軋みながら開く不穏に
ああ、いつもの…と思うのだが、
東アジアの湿潤が重くじっとりと降りて来る画にドキドキする
“いつも”はなく、
フランスの乾いた空気を透過する画はさらりと洗練されて
不穏が溢れ出す汚れや 神経に爪を立てる音が象るホラーは成立せず、
巨大な銀板に生命を吸い取られた女と
彼女の解放を企む男の物語は
哀しいファンタジーになってしまうのだった。
そこが
実に興味深い！
計算され演出された不穏が
“怖い”ではなく易々と“妖しい美しさ”になるヨーロッパの乾いた空気を
黒沢清がいかにも楽しんでいるように
感じてしまうのだもの…。
湿潤な葦原に住まうことができない幽霊は
どこへも抜け出せないドライブの果てに
男に絶望ではなく諦念の涙を流させるのだから。
佳作。
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