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2016年10月10日04:46

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書評「ノモンハン 1939――第二次世界大戦の知られざる始点」　ＰＡＲＴ６

関東軍の下剋上と東京の参謀本部との対立。

７月２０日、東京の参謀本部は新京より関東軍参謀の磯谷中将を呼び寄せた。
ノモンハン事件での軍中央の考え方を詳しく説明し、指示を与えるのが目的である。

軍中央部は関東軍にハルハ河東岸の防御陣地を維持させ、政府が外交で紛争を解決することを目指すものであり、外交交渉がまとまらない場合は「冬季の到来と共に兵力をソ連側の主張する国境線まで撤退」を求めた。

だが磯谷は、ソ連がノモンハンで大規模攻勢に出ることは兵站上も政治的にありえない。
紛争の「局地化」は日本が「断固たる措置」」を取ってこそ達成でくるものであると強く抗議した。
何千人もの兵士の血が流された、ハルハ河東岸から撤退することは、関東軍の名誉と威厳を守るために出来ない。というものであった。
厳密には、参謀本部が作成する文章で要綱とつくものは、直接的な命令ではない。
だが関東軍は要綱を提案として解釈する傾向があり、自らの裁量に基づき実施する余地を確保していた。

稲田大佐は認めている、関東軍の傲岸不遜な参謀達を、このときに更迭すべきだった。
にも拘らず、様子を見ることになったのである。
参謀本部は誤算を繰り返した。しかし、この後ノモンハンの戦闘激化させるのは関東軍ではなく、赤軍だったのである。

ジューコフの８月攻勢。

この頃欧州では、ポーランドに対し、ドイツが突き付けた要求を巡って危機が深まり、ソ連にとって好ましい構図が描かれようとしていた。
８月第一週には、ソ連との同盟を巡って英仏がドイツと角逐を繰り広げていることが、スターリンにもはっきりとみてとれるようになった。
西側（欧州）で勃発するであろう戦争について、自分が確実に自由な選択が出来るということをスターリンは悟ったのであろう。
また東京においていたスパイ・ゾルゲからは、日本および軍部首脳がノモンハン事件の全面戦争への拡大を回避する道を模索していると報告が入った。

スターリンはこれでモンゴル東部に赤軍を投入し、大規模な軍事行動を遂行しても支障はないと確信。
そして８月初旬、
「友邦モンゴル人民の領土を侵す日本のサムライどもに思い知らせてやる」
ノモンハンにおける大規模掃討作戦の準備を命じたのである。

ジューコフは第一軍集団の増強を加速させた。
４個師団に相当する規模の歩兵部隊、支援戦力として、騎兵２個師団、軽抱および重砲２１６門、
戦車４９８両、航空機５８１機が加えられた。
攻勢に必要な補給物資は、シュテルンのザバイカル軍管区司令部が４２００両のトラックを用意し、５万８千トンの物資を戦闘地区から遠い、ボルシャの補給所から輸送した。

日本が外モンゴルに儲けたスパイ網は貧弱なもので、またモンゴル領内での航空作戦を制限していた。そのため、日本軍はジューコフの兵力増強の規模を把握できなかった。
また日本軍は、広漠不毛地帯における大群の作戦の限界は鉄道から２００～３００ｋｍ以内であるという考えが、大前提となっており、鉄道から３２０ｋｍ以上離れた場所に至っては、いかなる場合でも兵站は不可能と考えられた。

※では、関東軍司令部は散々見てきたソ連軍戦車の大群を何だと思っていたのか？
空から降ってきたとでも思ったのか。
硬直化し思考停止し、自己都合しか考えない日本人の組織・民族的欠点が良く現れている。

満州国で自動車で関東軍が使用できるのは僅か８００台に過ぎず、ソ連軍が４２００台の自動車を動員して兵站業務を進めていたとは、日本側は想像もつかなかった。

ジューコフらは日本側に大攻勢の悟られぬよう、情報を隠匿し敵を欺く周到な誤情報宣伝工作を考えた。
約二週間目には特別な音響装備を用意して、夜の間、長時間に渡り、戦車や航空機のエンジン音、大掛かりな工事の騒音に似せた擬音を流している。
当初日本側は誤解したが、何日も経過すると擬音に慣れてしまい、夜ごとに流れる「セレナーデ」にも慣れて無視するようになった。

関東軍の中でも警告を発したものが、何名か、いたが無視された。
救いがたいまでに希望的観測に流れがちだったこと。こうした傾向が日本軍全体に蔓延していたことを喝破している。

８月１８日から１９日に、ヒトラーはスターリンに対し、　条約ー事実上の軍事同盟を規定とする条約ー締結のため、　リッペンドロップが速やかに訪ソ出来るようにしてほしいと要請した。
これは殆ど懇願に近いもので、こうしてスターリンは西側での安全を保障され、、日本に対する大胆な攻撃を決定したのである。
最後の攻勢準備は、ジューコフが進めた。

８月１９日夜、ソ連軍第一軍集団の大部隊が夜蔭に紛れてハルハ河を超え、東岸の橋頭保に到着した。
日本の前衛兵は配置につく部隊の立てた本物の騒音を、毎日聞かされた擬音と散り違えたのである。

ジューコフは、部隊を以下に配置した。

①北部集団（アレクエセンコ大佐指揮下）、
②中央集団（ジューコフはここに位置したが、指揮はペトロフ大佐）、
③南部集団（ポタポフ大佐指揮）
以上を主力とし、以下の支隊を準備。
ハルハ河予備部隊　第２１２空てい旅団、第９装甲旅団、第６戦車旅団の１個大隊。
３００門の対戦車砲や速射砲にみならず、２００門の重砲をハルハ河両岸に配置し、
また大隊レベル以上の歩兵部隊と装甲部隊には、それぞれ砲兵中隊を付けて支援した。

８月２０午前５時４５分
２００機を超えるソ連軍爆撃機の第一波がハルハ河上空に現れ、日本軍陣地への攻撃を開始。
今度は雷のような轟音とともに弾幕は張られ、それは２時間４５分もの間途切れずに続いた。
それから１５分に渡り、ソ連軍が日本側陣地の最前部に向けて全火砲を斉射した。
日本軍のどの部隊もこれほどまでに激しい爆撃を経験したことがなく、物的損害のみならず、心理的打撃も大きく、彼らはなすすべを失った。

午前９時
援護射撃を受けた全線の装甲車両と歩兵が出動。日本側は完全に虚を突かれ混乱に陥り、
前線に対する火力支援が開始されたのは１０時１０分。
とはいえ日本軍の抵抗も正午には強化され、前線のおよそ６５ｋｍに渡って激しい戦闘が繰り広げられた。

攻撃初日に大きな成功をおさめたのはM・I　ポタポフ大佐の南部集団である。