その世界にはさまざまな種族が生活している。
人はもちろん。人と形は似ているが、角があったり、羽が生えていたり、尻尾があったり。
どこか人とは違う亜人。獣人。精霊。妖精。などなど。
あげていけばきりがない多種多様な種族が生活している世界の、とある繁華街。
活気あふれる商店街の中を一人の鬼人族の青年が機嫌良さげに歩いていた。
「あら、梅(メイ)ちゃん今日はご機嫌さんね」
そんな彼に声をかけたのは飲茶を中心に販売している飲食店の女将。彼女は熊猫の獣人だ。
「うん!今お仕事終わらせて帰るとこなんだ!」
そんな彼女に梅と呼ばれた青年、梅月(メイユエ)は可愛らしい笑みを浮かべ、元気よく返事を返した。
「あらあら、お疲れ様。それじゃあお仕事頑張った梅ちゃんにご褒美を上げようかね」
そんな彼の笑顔に和んだ女将は彼を呼び。
「ご褒美?」
何がもらえるのだろう、と駆け寄ってきた彼に、商品棚に並べてあった物を紙袋に入れ手渡した。
「わあ!ありがとー!!」
それを受け取った梅月は満面の笑みを浮かべて女将に抱き着き、彼女もうれしそうに彼を抱き返していた。
そんな商店街から、一歩路地裏へと足を延ばした先。
喧噪あふれる商店街とは打って変わって静かな路地は大なり小なりビルが立ち並び、まるで迷路のように入り組んでおり、昼間だというのにどこか薄暗い。
そんな一角に【有楽堂】と看板を掲げた小ビルが一つ。
扉を開けて中に入れば、様々な古本や骨董品が所狭しと並べられており。
「だからぁ!あと1か月!…いや、3週間でいい!!あと少し待ってくれ!!」
その中から響く男の声が向けられているのは、このビル、有楽堂の主である、鬼人族の青年。
「そうは言われましても、貴方の返済期限はすでに二月も過ぎておりますので…」
何かに怯えるように辺りを見回しながら青年に懇願している男は、青年が何を言おうと引き下がる様子を見せない。
青年は終始穏やかな口調で男と話しているのだが、男の額には脂汗が浮き、もともとなかった落ち着きがさらになくなり今にも立ち上がりどこかへ逃げ出しそうな雰囲気を出していた。
「あなたも良い大人なのですから、借りたものは返さな…」
何度目かの押し問答の末、青年がやれやれとため息をついた時だった。
男は弾かれた様に立ち上がり、青年に向かって腕を伸ばす。
「っ!!?」
しかし、その腕が青年に届く前にその視界はぶれ、気が付けば男の眼前にあるのは床の木目。
「ただいま〜」
そして頭上から聞こえる間の抜けた声に、男の顔は一気に蒼くなった。
「…遅いぞ、どこで油を売っていた」
「莱莱飯店でご褒美もらったの!あとでお茶にしよーね」
男の頭上では何事もなかったかのように軽い声での会話がされているが、その内容とは裏腹に後ろに回された男の腕がみしみしと悲鳴を上げ始めている。
「う…ぐぅ」
さすがに男の口からうめき声が漏れると、それに気づいたのか上に乗っていた重みが消え。
「あれ〜?張さん?」
強い力で引っ張り上げられたかと思うと、今度は満面の笑みの、先ほどまで男が対峙していたのとは違う青年の顔。
「おうちに行ってもいないから、どこに行ったんだろうと思ってたんだけど。ちょうど良かった」
青年は可愛らしい笑みを浮かべているが、男の顔は蒼いまま。
「ここにいるってことは、返しに来てくれたんだよね?えらいえらい」
そう言いつつも、青年の手は男の腕を強くつかんだままで。男があがこうとそれが外れる様子を見せず。
「…仕方ありませんね」
そんな二人の様子を見ていたもうひとりの青年が小さく息を吐いて声を出す。
「…あなたもご存知の通り、私共も慈善事業で金貸しをやっているわけではないのです。ですので、あと一月。待ちましょう…」
バタバタと遠のいていく足音を聞きながら。青年、梅月は持っていた紙袋をテーブルの上に置き。先ほど男につかまれそうになって少々乱れた黒尖の襟元を直す。
「あれ、いいの?」
あれ、とは先ほどまで話していた男のこと。
「別に構わん。これ以上何を言ったところであの男から金が出るわけでもなし」
梅月のそれを受け、有楽堂の主の青年、黒尖(ヘイジェン)は気にした風もなく。梅月の手が離れると同時に机の上の書類に目を通し始めた。
「でもあの人、お仕事もちゃんと紹介してあげたのに。何でお金かえしてくれないんだろうね」
すぐさま仕事に戻ろうとする黒尖の様子に、梅月は茶器の用意をしながら声をかけ続ける。
「世の中にはそういう輩もいるということだ。だからこそこの仕事も成り立っている。だろう?」
「ふうん?」
梅月は、わかっているのかいないのか。黒尖の言葉に首をかしげて返事をし。彼のテーブルに淹れたての茶と月餅の乗った皿を出した。
「これは?」
「さっき言ったご褒美!莱莱飯店の麗林ちゃんがくれたんだよ」
先ほど持ち帰ってきた紙袋の中にあったのは手のひらサイズの月餅。
「お前が貰ったご褒美だろう」
「二個あるってことは、二人で食べなさいってことだとおもうよ」
どやっと言い切った梅月の様子に黒尖は呆れたようにため息をつきながらも、その月餅にかじりつく。
そんな黒尖の様子に、梅月は満足そうに微笑んでいた。
「に、しても。麗林"ちゃん"か。あそこの女将は高齢だと思っていたが…」
月餅をかじりながら、何気なくつぶやいた黒尖の言葉に、梅月は笑みを漏らす。
「ぼくにしてみれば、この街のみんなまだまだかわいい子供たちだよ」
そう言って月餅をほおばる梅月の姿はどう見ても幼く、その言葉と釣り合いが取れておらず、その言葉の真意は確認できない。
だが、黒尖にとってそれは深く追及するほどの事でもなく。
「…さあ、お客が来たようだ。休憩はしまいだ」
入り口に人の気配を感じ、梅月に茶器などを片付けるよう言って。
ゆっくりと階段を上がってくる足音に、扉が開く音。
部屋の中を見渡して、黒尖の存在に気づいた客人に彼は笑みを向け一言。
「有楽堂へようこそ」
さあ、仕事を始めよう。
END
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ツイッターの方でフォロワーさんとタグ遊びでできたキャラクターで話が書きたくなったのでその世界観というかなんかそんな感じのものを書いてみましたw
とりあえずお試しで書き上げたんで、細かいとこは後々変わるかも〜?
キャラの性格とかも変わるかも〜?←
この子たちが住んでる場所、最初九龍城的なとこ考えてたけど、今はなんか歌舞伎町的な場所のイメージになって来てるw
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