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2016年04月28日18:12

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「グランドフィナーレ」

短く―とか言いながら
本作は短くでは済まされない強烈な感動に打ちのめされる作品で
ちょっとちゃんと書いとかないとね。

原題は「若さ」で
高級リゾートホテルに滞在する80歳のおじいさんのお話。
それがね
面白いのよ!
いや…若い人には何だよこれ!かも知れないけれど
“年を取るということ” がユーモラスにリアルに摑まえられていて
おばさんにはグッと来るんだ(笑)。
いいですよ!
たぶん上映がすぐ終わっちゃうので 急いで観てね!





「グランドフィナーレ」 ’15 (伊・仏・スイス・英)


監督・脚本・原作:パオロ・ソレンティーノ 撮影・美術:ルカ・ビガッツィ
衣装:カルロ・ポッジョーリ 編集:クリスティアーノ・トラバリョーリ
音楽:デビッド・ラング
m:マイケル・ケイン,ハーベイ・カイテル,ポール・ダノ,アレックス・マックィーン
  ロバート・シーサラー,エド・ストッパード,マーク・ゴズレック
f :レイチェル・ワイズ,パロマ・フェイス,マダリーナ・ディアナ・ゲネア
  ジェーン・フォンダ,ヴィクトリア・ムローヴァ,スミ・ジョー

’15 ヨーロッパ映画賞 作品賞,監督賞,主演男優賞,名誉賞
’15 イタリア映画ジャーナリスト協会賞 監督賞,撮影賞,編集賞
’15 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭 観客賞


『グレート・ビューティー/追憶のローマ』のソレンティーノの新作。
スイスの高級リゾートホテルに滞在する老音楽家フレッドを中心に
マネージャーを務める娘,親友の映画監督,世界的スター俳優
往年の大女優,驚異的なボディのミス・ユニバース…らが織り成す
特殊な日常が描かれる。
特殊な日常というのは このホテルが療養施設のように
温泉のケアや温・水浴やマッサージが
サウナやプールやジムと同様に日程にプログラムされており、
滞在者は治療や施術を受けるように日常を消化しているからだ。
従って第一印象が「魔の山」のようだ。
高級サナトリウムで結核の治療に当たる個性的な人々に接して
カストルプ青年が成長するのと違って、フレッドは80歳、
功なり名遂げた老人は 同じく老大監督ミック・ボイルと
前立腺の不具合の話題で日々の挨拶を交わすし(笑)、
エリザベス女王の演奏依頼を頑なに固辞する頑固じいさんで
年相応に人生を緩い諦念で回顧しているから
カストルプ青年の成長譚とは正反対かもしれないが、
老音楽家が静養し“音楽”なるものを思考する設定は『ベニスに死す』に通じ
その監督ヴィスコンティが「魔の山」を企画していたことを思うと、
ソレンティーノは「魔の山」の設えと雰囲気を
意識的に導入している…と思わざるを得ない。
この特に何が起こるでもない 中高年者たちのホテル滞在譚はしかし
美しい高原の風景に 人間と建物,施設を配置して
企まれた構図の見事さで興趣あふれる画を提供するので、
その面白さや驚きと共に
機知に富んだ会話の妙 ユーモラスな哀しみに浸っていると、
ラスト
とんでもない至福の音楽体験に導かれて
涙がにじむほどの感動に胸が打ち震えるのだ。
ここには『ベニスに死す』のように
美や芸術についてのストイックな思考が美学の像を結ぶのではなく
芸術家の苦悩や審美もまた
前立腺の具合や過去の悔恨と同様に
悩ましく心惹かれるものであるように描かれていて、
老いの日常も 表現者の矜持も
すべて包み込んで音楽はあふれ
観客を(映画内コンサートの観客たちも映画を観ている我々も)
別の次元に攫って行ってしまう。
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』でフェリーニに挑んだソレンティーノは
本作でヴィスコンティにも挑んだのだ。
畏れ入った!
本年度ベストランキング入り決定の秀作。
(もう一度観るぞ!)
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