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2016年04月27日23:35

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「女性活躍」という名の軍事登用 その背景は(朝日新聞)

「女性活躍」という名の軍事登用 その背景は

2016年4月27日15時54分
朝日新聞



■佐藤文香・一橋大教授(社会学)

 「華麗なる自衛隊 女性パイロットの肖像」――。防衛省広報誌「MAMOR(マモル)」5月号は凜(りん)とした女性自衛官の写真で埋めつくされていた。昨年末の空自戦闘機に続き、この3月には海自の掃海艦、陸自の対戦車ヘリコプターなどへの女性の配置制限が解かれることが相次いで発表された。防衛省が、これまで「母性の保護」や「近接戦闘の可能性」等の理由で制限してきた配置に女性を起用し、採用数を増やしていくと決めたのも、政府の女性活躍推進政策を受けてのことである。

 女性の軍事登用は既に不可逆な流れとなっている。背景には適齢期男性人口の減少があり、また、平和と安全保障をめぐる活動に女性の参加とジェンダー視点の導入が求められているという国際的な「ジェンダー主流化」の動向がある。防衛省は、2020年の東京五輪で女性たちのアクロバット飛行を披露したいと夢ふくらませているそうだが、自衛隊における女性活躍のアピールは、男女平等後進国の汚名返上のまたとないチャンスであるのだろう。

 女性を利用したイメージアップ戦略は自衛隊の専売特許ではない。「対テロ戦争」をアラブ女性の「救済」として正当化する際には、自由で解放された女性兵士のイメージが功を奏したし、今日では駐留先の人びとの敵意を和らげ、男性兵士の問題行動による悪評の「解毒剤」となることも期待されている。さらに、女性のみならず少数民族や性的少数者を構成員に含めることで示される「多様性」は、進化し続ける進歩的な組織として軍を魅力化する資源とすらなっているのだ。

 ログイン前の続き女性の軍事登用とフェミニズムとの関係は一般に想定されているよりも複雑なものである。確かにフェミニストの中には、軍隊・戦闘が男性に独占されてきたことを不平等だと考える人びとがいる。米軍は既に女性兵士の戦闘参加解禁を打ち出し、今年から女性が全職種に就くことを可能にしたが、背後には退役軍人を含む女性たちの長年にわたる運動の歴史があった。

 一方で、反軍・平和主義の立場から、軍隊における男女平等要求を是としないフェミニストたちもいる。これに対しては、現に存在する軍隊の性差別や性暴力に目をつぶるのは無責任ではないかとの批判もあり、なかには、産み育て慈しむ性である女性が参入することで、これまでの軍隊や戦争のあり方を変革しうるのではないかと期待する者もいる。

 女性活躍を推進する論理として今日台頭してきているのは、男女平等の論理よりむしろ、先述したイメージアップも含め、女性を軍事登用することで情報収集等を容易にし、任務を効率的に進められるという論理である。こうした傾向は軍事組織に固有のものではない。

政府や企業が謳(うた)いあげる「女性活躍」は、往々にして日本経済の活性化や企業の業績向上の手段として位置づけられる。この場合に優先されるのはあくまで日本経済や企業の業績であって個々人の幸福ではない。

 女性の軍事登用は、国民や労働者を「手段」として活用することの問題点を、わたしたちにわかりやすく示してくれる一例であると言えるだろう。(寄稿)

     ◇

 さとう・ふみか 1972年生まれ。一橋大学教授(社会学)。著書に『軍事組織とジェンダー』、翻訳に『策略』『兵士とセックス』。

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