「日本橋」　「ヘイトフル・エイト」　「ビューティー・インサイド」　「サウルの息子」

「日本橋」、

市川崑 初のカラー作品。1956年製作。
泉鏡花の原作を知らないが、日本橋の芸者たちの群像劇は
淡島千景，山本富士子，若尾文子らの芸妓姿が眩しくて、
日本家屋がセットのせいか
引きの画が少なくていつもの重厚さを感じないなぁ…とか
空間が狭くて 窮屈な感じがするなぁ…とか思うのだけれど、
まぁ 彼女らの美しさと“芸者の粋”というか“気風(きっぷ)”というか
今ではもうこんな女の在りようはないんじゃないの？と思ってしまう
カッコよすぎの造形と芝居にうっとりすればいいんじゃないのかしら。





「ヘイトフル･エイト」

監督･脚本：クエンティン･タランティーノ　撮影：ロバート･リチャードソン
美術：種田陽平　音楽：エンニオ･モリコーネ
ｍ：サミュエル･Ｌ･ジャクソン，カート･ラッセル，ウォルトン･コギンズ
　　デミアン･ビチル，ティム･ロス，マイケル･マドセン，ブルース･ダーン
　　チャニング･テイタム
ｆ　：ジェニファー･ジェイソン･リー

『イングロリアスバスターズ』にしろ『ジャンゴ 繫がれざる者』にしろ
露骨な人種差別を過激な暴力で笑い飛ばす風の作品を撮り続ける
クエンティン･タランティーノの新作。
“密室ミステリー”ってふれこみだけれど
全員悪党！のクソ野郎どもが血と脳漿を撒き散らす
バイオレンス上等！なタランティーノ映画は、
“バイオレンス上等！”をタランティーノ節として楽しめる観客には
とっても面白いと思う。
悪天候で同宿することになったいわくあり気な面々のサスペンス…というのは
定番中の定番だと思うけれど、
やっぱりタランティーノは脚本が上手い！…というより
キャラ造形が抜群で、
雪で閉じ込められた「ミニーの店」に集う男たちは
お前ら怪しすぎだろっ！みたいなクソ野郎どもで、
ただ一人の女性キャラ デイジーさえ“殴られまくる”ことがギャグになっていて
人種差別 性差別が暴力によって笑い飛ばされている脚本を
これって 笑っちゃっていいんだよね？ タラちゃんだし…と
少々気にしながら笑ってしまう その居心地の悪さにこそ
タランティーノの本領があるのだと思う。
小池一夫的キャラ立ちとバイオレンス…
んー…劇画の国の住人だよね、タランティーノ(笑)。
でもね
一番驚いたのは、美術が種田陽平だったこと。
西部劇もやれちゃうんだー！！





「ビューティー･インサイド」、

東芝とインテルによるグローバル･ソーシャル･フィルム
「The Beauty Inside」が原案だそうな。
眠って起きる度に毎朝姿（顔や体型や性別や年齢）が変わってしまう男性
ウジン（30歳）は家具職人として生計を立てているが
ある家具ショップの店員イスに恋をして…というお話。
毎日姿が変わる相手を愛し続けることは可能か…？みたいな
堅い読みは放っておいて、
韓国のＣＭディレクター，ビジュアルアーティスト ぺクが提出する
オシャレでカワイイ 上質な少女マンガ的世界を
サクッと楽しめばいいでしょう。
面白いよ！
ドラマ「トンイ」のハン･ヒョジュ演じるイスがそれは魅力的に撮られていて
まぁキレイで可愛いこと！
ただ、ウジンは海外には行けないような気がするけど…ね(笑)。





「サウルの息子」　’15 (ﾊﾝｶﾞﾘｰ)

監督･脚本：ネメシュ･ラースロー　共同脚本：クララ･ロワイエ
ｍ：ルーリグ･ゲーザ

’15 カンヌ国際映画祭　グランプリ
’16 ゴールデングローブ賞　外国語映画賞
’16 アカデミー賞　外国語映画賞

ネメシュ･ラースローはタル･ベーラの助監督を務めた人で
これが長編初監督作であるらしい。
ゾンダーコマンド(アウシュビッツのガス室･焼却棟で使役される特殊作業員)
サウル･アウスランダーの２日間が描かれるのだが、
スタンダードサイズのぼんやりとした画面が彼を明瞭に捉えると同時に
観客は彼の目が見、彼の耳が聞くものを
ただひたすらに受け取り続け、
恐怖と混乱が死の生産工場を極めて合理的に回して行くさまを
サウルと共に体験することになる。
シャワーを浴びさせる―と言って服を脱がせ
床屋・テーラー・看護師 等の技能者を求めている―と言って安心させ
こちら側から入れて あちら側から死体で出す―といった
既に聞き知った事項が目の前で展開するのを
息を殺して眺めているしかない映画体験こそが
この映画を観ることの意味であり、
1944年10月7日の ゾンダーコマンドの蜂起が
息子を弔おうとする狂気のようなサウルの思念の向こうで進行することに
ただ向き合わねばならぬ観客は、
人間の尊厳を、勇気を、見続ける覚悟を問われるのだ。
すさまじい映画である。
秀作。