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2016年01月04日21:26

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ショートストーリー「慌ただしく正月が過ぎた」

            慌ただしく正月が過ぎた
                          Zefaro
倅夫婦が孫を連れて帰省して来た。
「何も無理して帰らんでもエエのに」
「別に無理なんかしていないさ」
「お義母さん、すいません、また、お世話になります」と、お土産を出す。
「玲子さん、あんたお客さんだで、な〜もしちゃならないけんね」
    (この子は素直と言うか、ズーズーしいと言うか、本当に動かないんだから・・・)
「おばぁちゃ〜ん」と孫が抱きついて来る。
    (孫の目当ては、お年玉、わかっちゃいるけど孫は可愛い)
あれほど喧嘩をして憎みあった父の仏壇を拝む倅。
そうか、許せるのか、大人になったもんだ。
    (あたしゃ、まだ許せていないところもある)
おせちを大体作り終えて雑煮に取り掛かる。
昆布で出汁を取り具を入れて煮て行く、グラグラと煮立って来た、味付けをしようとした途端寒気がして「ハクション〜」入れ歯が鍋の中へチャポン〜、思わず後ろを振り返る。
誰も気が付いていない、急いで菜箸で取ろうとするが上手く行かない。
煮沸殺菌が進む。
お玉で救い上げて丼に移し蛇口をひねる。
思いがけずに殺菌した入れ歯を口に戻し何食わぬ顔で味付けをして火を止めた。
紅白も終わりテレビから除夜の鐘が響く。
翌朝、孫に起こされる、いったい何時から起きているんだ、この子は?
今か、今かと待ちわびているらしく正座して目を輝かせている。
「おばあちゃん、あけましておめでとうございます」
「はい、たかし君もあけましておめでとう」と、お年玉を渡す。
「ありがとう」
テーブルにおせちを並べて雑煮の中へ焼いたお餅を入れて朝ご飯を食べる。
口々に美味しいとお世辞を言う。
黙って座ればホテル並に食事が出る、煮沸殺菌と言うアクシデントがあったが、感謝して当然だと思う。
そして初詣、今更願う事もありはしない、しいて言うなら認知症になりません様に・・・
まっ、なっても本人の自覚は無いだろうから、どうでも良い(笑)
家に帰ると倅がUターンで混む前に帰ると言い出す。
引き止めても無駄な事、大量のおせちが頭を過る。
「まだ一緒に暮らす気になれないのか?」
「まだまだ頑張るよ」
笑顔で見送り、心で悪態をついてみた(家政婦じゃ無い)

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