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2015年12月20日22:08

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失恋ショコラティエ

「きみはペット」が面白かったので、じゃあひょっとしてこれも面白かったりする、、、?と読まず嫌いしていた少女漫画「失恋ショコラティエ」を読んだところ、予想の3倍くらい面白かったことを報告。


すごいよ!
失恋ショコラティエは本物だったよ!


「大失恋したケーキ屋のせがれ(イケメン)がショコラティエになって自分をふった小悪魔系ヤリマンとグタグダする」という私の心の琴線の一切をくすぐらない設定・「上手いようで下手」という少女漫画あるあるの絵・表紙は主人公のイケメンパティシエの憂いを帯びた風の顔と、とてつもなく敷居が高すぎて今まで手に取れなかったのですがそれでも当時のananやらダヴィンチやら宝島社なんかの評価の高さから気にはなっていたのです。

実際に読んでみると、恋愛がちゃんと恋愛として描かれた「一人の天才菓子職人の青春」というぶれない軸をドンと据えたあまりにも背骨の太い作品だったという。

ほんとこれ表紙とか絵柄とかショコラに騙されがちだけど、めちゃくちゃ男らしい作品なんですよ。
普通にヤングアニマルに掲載していてもおかしくない漫画。ベルセルク読んだあとに読んでもテンション変わらないくらいディティールがめちゃくちゃしっかりしている。
キャラクターが地に足ついていてちゃんと血が通っていて、作品の根幹にまったくぶれないテーマがあってそして熱い。

私恋愛漫画(小説にしろドラマにしろ)はあまり読まないんですが、その理由がそこに描かれている「恋愛」というのが往々にしてちっとも恋愛に見えないからなんですよ。
そんな薄っぺらいのがお前の考える「恋愛」なのかよ!と。もっと本気出してみせてみなよ!(修造)となるわけです。

そのあたりの私の恋愛漫画におけるフラストレーションをかっ飛ばしてくれたのが「失恋ショコラティエ」だったと。

そう!それ!!と。
もう小ぎれいだったりスマートだったりキャッチーだったりきらきらしていたりとかそういうのじゃないんだよと。

恋愛っていうのは欲望と打算と駆引きと自己承認欲求にまみれたそりゃぁもうキモくてカッコ悪くて汚くてみっともなくて頭のおかしい、そんなドロドロの熱の中にほんものの「愛」としか呼べない奇跡のように貴い何かがごくまれに混じることがある、それが恋愛なのだと。

そんな作者水城せとなさんの熱い信条が読んでいてビシバシ伝わってくるすごい漫画でした。素晴らしかった。

物語のガジェットとして登場しているだけだと思っていた「チョコレート」の描きこみようも微に入り細に渡っており、「食べた人がほんの一瞬、だけど最上の幸福と快楽を得る」というチョコレートが持つ力と説得力を描き切っていたのも見所。

私はあまり甘いものは好きではないんですが、それでも「食べものが持つ力」みたいなものはものすごく信じていて、だから「チョコレート」が持っている力というのは中でもちょっと特殊だなぁと思うんですよ。
あれ別に人体に必須の栄養では全くないじゃないですか。
なのに食べた時、食べた人を本当に幸福にしてしまう。

めちゃくちゃ嫌なことがあっても、悲しいことがあっても、ぶちギレて頭の中が煮えたぎっていても、食べた瞬間問答無用で人を快楽のるつぼに連れて行って祝福してくれる。
美味しい食べものにはみな多かれ少なかれそういう力があるけれど、その牽引力がいちばんすごいのがチョコレートだと思うんですよ。

そこに人生を賭ける意義があると信じ自分のすべてをそこに注ぎこんで日々修練しているのが「ショコラティエ」なんだと。
そしてこれはその若きショコラティエの恋愛の話、と一貫して描き切られていたところが素晴らしかったです。


■ 魔性のヒロイン・サエコについて


恐らく作者の水城せとなさんがチョコレートと同じくらいの神経を注力して描いていたのはサエコさんだったと思うんですよね。

「大した美人でもないくせに高校の頃から学年1のイケメンを次々と喰いまくり学校中の女子から嫌われていた女」・サエコ。
主人公爽太は高校1年生時に彼女に恋をして以来、彼女のどんな汚い姿を目にしたとしても11年間恋の炎に身を灼かれ続けることとなる。

このサエコさんの描かれ方がすごくよかった、、、!

才能あるショコラティエ・爽太の創作意欲に常にインスピレーションを与えるミューズとして実に説得力のある女性として描かれていた。

チョコレートが好きで可愛いもの綺麗なものが好きでふわふわしていて男の庇護欲をそそる守ってあげたくなるそんな女性なのだけれどもその実めちゃくちゃシビアで冷静な思考と全力で幸せに向かって突き進んでいく迷いのないバイタリティと自立したメンタルの持ち主なんですよね。
だけど21歳の時爽太のチョコレートをそれがどれだけ「大切につくられたもの」かを一目で理解して、きっぱりと受け取れないと拒否したように人間の真心を踏みにじるようなことはしない正義も持ち合わせている。

かっこいい人間として描かれていたところがよかったです。心情を描き出すモノローグが一切なかったところも素晴らしい演出でした。
つまりサエコさんが爽太をどう思っているのかは常に絵のみで語られ読者ですらサエコさんの本心は「感じる」ことしか出来ないという。
それでこそファムファタールの正しい姿だなと。

良い漫画でした。
恋愛の圧倒的差別性、自己愛、その中でしか生まれない奇跡のような純粋な真心を余すことなく描いた上で、徹頭徹尾「ショコラティエが失恋する話」という軸をぶらさなかった水城せとなさんに拍手。
爽太がサエコさんに11年の思いの丈を告白するシーンは普通に泣いた。
7 2

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