手を汚したくない猫

　朝から雨が降っていましたが、正午近くなったら上がりました。それを確認した猫のイークンは「外に出たいニャーン」とガラス戸の前で私を呼んだのです。遊びに行くときは自分で勝手に開けて出て行くのですが、わざわざ私を呼ぶときは、たいていトイレの用を足したいときです。

　「そうかい、そうかい、トイレかい」
　そう言いながらガラス戸を開けてやると「分かっているじゃあないか」というような顔で振り返り、大急ぎで出て行きました。

　ところがすぐ戻ってきて「ニャーン」とまた呼ぶのです。いつもなら自分で開けて入って来るのに、変だとは思いながらも開けてやりましたら、何とイークンは家の中のトイレに直行したのです。外の泥はまだ濡れていて、掘れば手（前足）が汚れるので、家の中のトイレを使おうという気になったのでしょう。それを見ていたカミさんはイークンを褒めます。
　「あら、手が汚したくなくて帰ってきたの、お利口さんねえ」

　イークンはトイレから飛び出したら、例によって例の如く、廊下をドタドタと足音をたてて走りまわった後、神棚の上に飛び乗りました。４匹も飼っている従姉妹の家の猫も、トイレが済むとなぜか走りまわるそうです。

　すっきりしたのではしゃぎたい気分なのか、イークンはちょこんとのぞかせた両手の上に顎を乗せたり、仰向けになったり、横に向いたりしながら、得意げな目つきで私達を見下していました。