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2015年10月17日08:00

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「富士日記」(武田百合子)

小川洋子さんの「博士の本棚」に出てきて、小川さんがとても好きで、大事にしていた本。

是非読んでみたいと思っていた作品。
上巻・中巻・下巻に分かれています。

一冊一冊がそれなりの厚さで、三冊を一気に貸出期間中には読み切れなくて、期間延長をしたり、一旦返して日をおいてまた借りて、全部読破しました。

とてもいい本でした。
小川さんの気持ちが分かります。

陽だまりにいるいい心地になれる作品です。

夫の武田泰淳さんと過ごした富士山麓の山荘での十三年間の日記。その日の食事内容、買ったものの品物と値段も書かれていて、家計簿兼日記という形式。

例えば、昭和46年6月20日の書き出しはこんな感じ。

「六月二十日(日)小雨、一日中降ったりやんだり
朝 ごはん、味噌汁、のり、うに。
昼 ふかしパン、スープ。
夜 ごはん、豚肉と高野豆腐煮付、きゅうりと油揚げとピーマンのにんにく醤油漬。グリーンピース塩茹で。」

格別豪勢な食事でもなく、親しみが持てます。このふかしパンというのは何回も登場し、食べてみたくなります。

上巻は山荘が出来上がって、東京から通い始めた頃から始まります。色々なところの不具合も見つかり、管理事務所に修繕を頼みに行ったり、ふもとの町の商店街の人などの交流の様子。山荘の周りの自然や動物の様子が書かれています。

中巻からは近所に同じく富士山麓に山荘を建てた大岡昇平夫婦が登場します。
とても仲がよく、散歩の途中に立ち寄ったり、お互いに食事に招いたりしています。

下巻は、今までと同様な山荘の暮しが書かれていますが、夫の武田泰淳さんの体調が思わしくなくなっていきます。

ある日の日記にはこんなことが。
山荘に出かけようとしたところ、具合が悪いのを見て「医者に行く?」と聞いた百合子さんに対して、泰淳さんは「山荘に行けばよくなる」と言ったと。

段々弱っていく、泰淳さんを見ていて百合子さんは胸が詰まる思いをします。
読んでいるこちらも別れが近づいていることを感じ、切なくなります。

購入した高枝切り鋏を山荘に持ってきて、張り切って庭の手入れをして、疲れて眠ってしまった百合子さんの頭を「お疲れさま」という感じで泰淳さんが撫でることが書かれている部分があります。夫婦の中の良さを表わしているようで、羨ましくさえ思えました。

山荘の様子を読んでいると、自分もその住人で、その家の窓から景色を眺め、周りを散歩し、人々との交流を楽しんでいる気分になります。

泰淳さんを亡くしてから、百合子さんは思い出のいっぱい詰まった山荘でどんな日々を送ったのか。
気になるとこですが、この富士日記は、泰淳さんの1周忌あたりで終わっています。

この山荘は、百合子さんがなくなって15年後に、富士日記にも登場する一人娘の花さんが処分することに決めます。

http://www.fujinkoron.jp/number/000094.html

実物の山荘がもうないのは、寂しいですが、どんな山荘だったかを想像しながら読むのもなかなかいいものです。

私にも大切な作品になりました。
この本は、いずれ自分の本棚にも加えようと思います。

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落語家 柳家さん若さんを応援しています。

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