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2015年10月11日22:07

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本 十五少年漂流記  ジュール・ヴェルヌ 訳:椎名誠、渡辺葉

十五少年漂流記  ジュール・ヴェルヌ 訳:椎名誠、渡辺葉

小学生の頃に確か読んだことがある冒険小説の元祖を
椎名誠が娘さんと新たに共訳したってことでお買い上げ。

1860年3月、ニュージーランドの寄宿学校に通う8歳から14歳の15人の少年たち、
体験航海の出航の前日に大型ヨット:スラウギ号に乗り込むが、
原因不明の事故によって少年たちだけを乗せ嵐の中、出航してしまい、
見知らぬ土地に流れ着いてしまう。
漂着した海岸から内地へと調査に繰り出すが、
近くに陸地などがない孤立した島だということを知る。
岬に旗を掲げ、そばを通る船に発見してもらうことを願いながら、
島内に発見した洞窟に移り住み、リーダーにアメリカ人のゴードンを選出し、
15人の植民地として運営していくことにする。

島内をさらに探検し、新たに発見する動植物を食料や燃料にし、
生活に必要な道具や仕掛けを作り、島での生活は次第に潤い、厳しい冬も乗りこえる。
しかし漂流から1年たち、フランス人のブリアンが二代目のリーダーになったことで、
イギリス人のドニファンが反抗的な態度をとりはじめ、15人の結束に少しずつひびが入る。
さらには弟ジャックの抱えていた秘密が、ブリアンに大きな衝撃を与える。
そして、漂流から2年目を迎えた嵐の夜、島に謎の船が流れ着いたことによって、
少年達の生活は激動していく…。

面白い! こんな話やったんや。 
わずか13,4歳の少年達の見事なリーダーシップぶりと、
知恵を絞って工夫して生き抜く様が素晴らしく、読んでてワクワクでした。
船には長期の航海に備えて食料、燃料、服、武器、工具等
ある程度必要なものがあったとはいえ、
家畜を買ったり、海水から塩を作ったり、アザラシから脂をとって火種にしたり、
洞窟を快適に住めるように拡張したり煙突や引水菅を引いたり、
ほんま子供とは思えないサバイバル能力。

島自体、冬の寒さは厳しいものの、
水もあるし魚も動物の肉も卵も野菜も摂れたりで、
それらを彼らがうまく工夫して食べたり利用することで、
快適な暮らしを作り上げていくので、
もうこのまま帰らんでもええんちゃうんと思えるぐらい。

いつ帰れるかわからなくなっても自暴自棄にならず
年長者が年少者に勉強を教えたり、民主的にリーダーを選んだり、
お互いに規律を守るように過ごしたりする自律心にも感心。

ところが、最大の危機はサバイバル生活の厳しさから起こったのではなく、
やはり子供であっても大人と同じ、妬みとか虚栄心が引き起こしたのでした。
二代目リーダーになれると思っていたイギリス人ドニファンが
フランス人ブリアンに負けたことから仲間を連れて出て行くことに。
当時のニュージーランドはイギリスの植民地だったので、
イギリス人が一番幅を利かせていたのに対し、
この少年達の中では少数派のアメリカ人ゴードンとフランス人ブリアンを
より優秀で人格者として描き、イギリス人ドニファンをそれに反抗する
短気で虚栄心が強い人間という構図になっています。(ちなみに作者はフランス人)

当時の世界のパワーバランスがそういう感じだったので、それを作者が憂いて
最終的には助け合って(この和解のエピソードがええ話)共通の敵に立ち向かうという、
人種は違っても一つになろうという作者のメッセージがこの話にこめられています。
この辺は小さいころに読んだ時には気がつかなかったことです。
ちなみに黒人の少年水兵出てきますが、彼にはリーダーの投票権はなく、
黒人に関してはまだ若干、差別というか階級意識が残っています。
(ただ、食事担当で船も操れて優秀なので、他の少年から蔑視されたりはしない)

最後はいい大人と悪い大人が島に現れ、なんとか勝利し、大円団を迎えるわけですが、
その際、子供達が悪い大人を殺してしまうというのは、
冒険談としては面白いけど、よく考えると教育上よろしくないのではと思ったりも。

作中に出てくる植物やいろんな動物の知識が半端ないです。
当時はウィキペディアはもちろん、カラーの百科事典もないはずなのに、
よくこれだけたくさんの動植物の色や形状や性質といった細かい描写ができたなと。
作者の知識の豊富さ、描写力の高さにも感心いたしました。
その辺の未知のものが手に取るように描かれるワクワク感が
全世界の子供達を時を超えて魅了して読み継がれてきた所以でしょう。

椎名氏の訳文ということで、興味を持って読んだのですが、
予想に反してシンプルというか、氏の小説やエッセイにくらべたら淡白な感じでした。 
やはり国分寺書店〜や哀愁の街〜、銀座のカラスや岳物語みたいな
スーパーエッセイというか、体育会冒険オヤジ的なオラオラ系のノリには
さすがに原作に敬意を表してできなかったのでしょう。
そういうのをちょっと期待していたのですが。

この物語は1888年に出版されて、原題は”二年間の休暇”といいます。
日本では十五少年〜というタイトルが有名ですが、
実は原題の方の訳本もあるっていうのをはじめて知りました。
1860年、そのころ日本の少年達は何をしていたかというと
少し後の1868年に会津の白虎隊の悲劇があります。
といっても彼らの中心は16,7歳で最年少が13歳。
それを考えると、白虎隊よりも若いこの物語の主人公はほんまにたくましい。

で、この小説と同じく無人島漂流の設定で、仲間の対立をもっと激しくしたのが”蠅の王”。
小説の方が有名らしいのですが、私は映画で見ました。
あれはほんとうに悲しい映画だった。
仲間割れのおろかさ、声高に叫んで扇動することの危険性、人間の奥底に潜む残忍性。
この話は最後に救いがあってほんとによかった。
でも、漂流した中に女の子がもしいたら、またややこしい話になるんでしょうな。

椎名氏にとっては小説家、そして冒険家になった原点となる物語で、
舞台となる島を探すドキュメンタリーも書いてるほど思い入れのあるお話です。
そんな大切な物語を娘さんと一緒に21世紀に新たに蘇らせることができて、
更に思い出深い小説になったことでしょう。
そんな氏の愛してやまない物語、納得の面白さでございました。


全然、話変わって、昔から密かに応援している女優の小橋めぐみさん、
すごい読書家でBS-NHKでブックレビューの番組にも出たりしてますが、
この度雑誌に連載されていた読書エッセー(97冊分)が出版されました。
本好きのみなさん、本屋で見かけたら、ちょっとページをめくってみてください。
好きな本が取り上げられてるかもです。
↓”恋読 本に恋した2年9ヶ月” 小橋めぐみ著  いや〜、美しいなあ。
https://www.youtube.com/watch?v=quA_TaioNiw&feature=youtu.be






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