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2015年09月18日18:46

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『蜂に魅かれた容疑者』『福家警部補の追求』『ブラッドアーム』

たまっていた大倉崇裕先生の本をまとめ読み

『蜂に魅かれた容疑者』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062190265/
坊主頭でこわもての須藤友三警部補と動物マニアの薄圭子巡査の警視庁総務部動植物管理課コンビの長編(須藤さんが制服のままの薄巡査とタクシーに乗る度に誤解されるというギャグがくりかえし出てきます)。カルト集団への警察一斉捜査、閉鎖空間を利用したテロ、警察幹部の狙撃と、20年前に実際に起きた事件をモデルにしているのは明白ながら、きちんと本格推理してくれるのが嬉しいところ。警察内部の内通者の存在や教団検挙にあせった警察組織自体の暴走の可能性まで視野に入れつつ市民を守ろうとする須藤さんの人間観察と、テロに利用された蜂も含め動物たちの生きる場所を守るため薄巡査の生態観察がともに事件の真相を暴く上で共鳴しあうあたりの構成は見事。さらに今回は動植物管理課設立の理由となった事件についても語られます。
カルト教団の名が「ギヤマンの鐘」(『仮面の忍者赤影』卍党篇か!)、冒頭近くで出てくるアライグマの名がセブンガー(あと三匹いることやその名前まで予想ついちゃったよ!)、アライグマの寄生虫の権威として名前が出てくるのが芹沢博士(たぶん片方の目がお悪いんだろうな)と大倉先生ならではの特撮ネタもつるべ打ち。さらには須藤さんのかつての同僚に眠らない女がいることが言及された当たりも楽屋オチながら楽しい趣向でした。

『福家警部補の追求』

http://www.amazon.co.jp/dp/4488025447/
で、その眠らない女の事件簿(倒叙物)。Kindle初出と書きおろしの2話収録。
「未完の頂上」
大倉先生得意の山岳ミステリ。福家警部補は「ギヤマンの鐘」関連事件解決の直後から捜査に着手(つまり『蜂に魅かれた容疑者』とつながっている)。プロの登山家の犯人相手に山道で息も切らさず汗もかかずにぴったりついていく福家警部補、すでに妖怪のたぐいか。
「幸福の代償」
人間よりも動物の幸福を尊重し動物の習性を知り尽くした人物、つまりは薄巡査とかぶるキャラの犯人による悪徳ブリーダー殺害。ゲストで須藤警部補もちらりと顔を出します。
人間も動物の一種としてとらえ、習性の把握と条件付けで行動を操る犯人の盲点が、その操作された行動と人間の日常的な習慣とのずれにあったというのは見事。
この作品と警視庁総務部動植物管理課シリーズを通して改めて思うのは大倉先生の動物への関心は怪獣への愛好としっかりつながっているのだなということ。

『BLOOD ARM』(ブラッド・アーム)

http://www.amazon.co.jp/dp/4041028248/
「天体調査のための施設」と称する地元の人々にとってさえ正体不明の施設がある黒岩山、アルバイターの沓沢は山中の集落への配達途中で奇妙な生物に襲われる。その危機を救ったのはボディスーツの白衣をまとった女性だった…
 大倉先生の山岳ミステリや落語ミステリ、そしてもちろん本格というジャンルへの情熱は重々理解しているつもりではあるが、この本読んで、もう本当に書きたくてうずうずしていたのはこの世界だったんじゃないかと思ったw
 秘密基地に謎の美女に触手に怪獣にマッドサイエンティストと男の子の妄想全開の一冊。出てくる怪獣の大きさだけは不満と思っていたらクライマックスではあんなことに…
 しかも主人公の沓沢が事件にまきこまれた理由についても周到な伏線が張られながら、彼の正体に関わるある単語だけは最後まで出さないという技は見事。


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