7月24日
野呂川出合いを6時50分に出るバスに乗ると言うYさんは4時に小屋を出発した。
彼女を見送った後、急に寂しくなった。
両俣小屋まで一緒だった彼女が同志に感じられたのだ。女性でここまでテントを担いで歩く人は多くはないだろう。
今日は仙丈ヶ岳まで、標高差1000mの登りだ。
「ほとんどの人は逆コースですよ。ここから仙丈ヶ岳に登るのは大変ですからね。」と星さんが言った。
星さんに見送られて5時過ぎに小屋を出る。
青空も見えてきた。
まずは野呂川越までの急登だ。昨日下ったので、大体様子はわかっている。
急な上に倒木も多いのだ。
野呂川越からはまた小さなアップダウンが続く。
南アルプスらしい樹林帯の道が続く。
コースタイムは7時間になっているが、休憩を入れて9時間くらいかかるだろうと予想する。
初めのうちは、両俣小屋まで戻れば林道経由で楽に帰れるなと思ったりする。
8時46分に高望池に着く。
地図を見ると、ここから仙丈ヶ岳まで4時間になっている。普通なら途中にポイントがあって、2時間ずつくらいに分かれるのだろうが、何もなく4時間となっているところがすごい。
ここからいよいよ仙丈ヶ岳への登りということなのだろうか。
やがてハイマツ帯になる。あまり人が通らないからだろうか、ハイマツが道に覆いかぶさって歩きにくい。
すると上から一人の男性が下りてきた。
今日登山道で初めて会った人だ。立ち話をする。
両俣小屋に泊まるというので、星さんによろしくと言づける。
人と話したことで、リラックスした気分になった。
いろいろな花が出てきた。
樹林帯の道にはほとんど花が咲いていなかったのでうれしくなる。
かがんで写真を撮る余裕も出てくる。
やがてガスの中に山頂らしき姿が見えてくる。
大仙丈ヶ岳だ。ほっとする。
ここからは最後の登りだ。
あせることはない。ゆっくり行こう。
仙丈ヶ岳との間は岩場になっている。慎重に進む。
やがて山名版が見えてくる。山頂には誰もいなさそうだ。
一歩一歩近づいて行く。
午後1時43分、仙丈ヶ岳山頂に着く。
やっぱり涙があふれてきた。
しばらく山頂にいたが、なかなかガスは晴れない。
小屋に下る。
生ビールを飲む。
しかし、それまでの静かな南アルプスとは対照的だ。
子供も何人かいる。賑やかな雰囲気にちょっと興ざめしてしまう。
小屋は寝具を使わなければ500円安くなる。せっかくシュラフを持ってきたので、使うことにした。
シュラフの人はもう一人いた。74歳というKさんだ。
Kさんは、光岳まで2週間かけて縦走するというので驚いた。さぞかしのベテランかと思ったら、登山歴は10年。60過ぎてから始めてこのパワーだ。
6年前にも南アルプス全山縦走をしたそうだ。去年は北アルプスを長期縦走したと言う。
普段は20kgのザックを背負ってトレーニングをし、本番では18kgのザックにしたそうだ。
このKさんと出会って、ほっとした。
シュラフの人は2階の部屋ではなく、食堂で寝る。500円違いなのにずいぶん待遇が違うなと思う。だが、考えようによっては気楽だ。
広い食堂をKさんと二人で使う。
さて、明日の朝はご来光が見られるだろうか。
ご来光はともかく、塩見岳からの仙塩尾根だけは見たいものだ。
期待を胸にシュラフにもぐり込んだ。
7月25日
3時過ぎに2階から人が下りてくる。
早いと思ったが、私も起きだして準備をする。
次々に人が下りてくる。みんな山頂でご来光を見ようとしているのだ。
今日の日の出は4時半過ぎだ。
東の空には雲が低くかかっている。
日の出の時刻を過ぎてから、雲の上からの日の出になった。
それでも周りは360度の展望が広がっている。
もちろん塩見岳も見える。
随分遠くなんだな。あそこから、歩いて来たのだ。
右に左に曲がりながら道が続いている。
ありがとう、塩見岳。
ありがとう、仙丈ヶ岳。
ありがとう、仙塩尾根。
北沢峠に下る。
今日は土曜日だ。
たくさんの人とすれ違う。
帰りの高速バスの窓から南アルプスの山々が見えてくる。
いつまでも飽かずにその風景を眺めていた。
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