mixiユーザー(id:78391)

2015年06月12日22:54

643 view

マリネラ核武装への長い道のり(承前)

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1940300407&owner_id=78391
の続き)

 同じ頃,マリネラ港には鉱石貨物船が,頻繁に出入りするようになっていた.
 これはロイズ保険組合の記録を見るだけで明白だった.
 MI-6は港湾労働者を一人買収し,鉱石を1個,サンプルとして盗み取らせた.
 成分分析をした結果は,明らかにソ連のクラスノカメンスク鉱山産出のウラン鉱だった.

 スイス当局も,この取引のことを薄々は感づいていたらしい.
 そしてスイスは,マリネラのこのやり方を真似ようと考えた.
 なぜなら同国自身,1946年に核エネルギー研究委員会を設置し、核兵器の研究を開始していたからである.
 スイスはミラージュ戦闘機購入をダミーとして,フランスとの間でウラン鉱石購入の秘密契約を結んだ.
 しかし,スイス政府が計算違いをしていたことが一つあった.
 マリネラは王政だが,スイスは民主主義国家だったことだ.
 ミラージュ戦闘機を異常な高値で購入したことは,議会のチェックを受けてたちまち問題となり,ウラン鉱石の裏取引が露呈してしまったのである.※1

 アフリカのコンゴでは,別な形の,ウラン鉱石の不明瞭な流れがあった.
 コンゴはベルギーの圧政から,1960年に独立を果たしたのだが,すぐに内戦に突入した.
 以後5年に及んだコンゴ動乱の始まりである.
 その混乱のさなか,コンゴ唯一の港,バナナ港から1隻の貨物船が出港していた.
 アメリカ向けのウラン鉱石を満載していた貨物船「コバヤシマル」.
 それがバミューダ島沖で消息を絶ち,1か月後,海底で沈んでいるのが発見されていた.

 船は第二次大戦中に量産された「リヴァティ船」と呼ばれるタイプだった.
 このタイプは量産性重視のため,全溶接で建造されていたのだが,鋼の低温脆性破壊による沈没事故が多発していた.
 したがって「コバヤシマル」も,ただの事故だと思われた.※2

 だがサンダースは,これがマリネラにほど近いバミューダ沖で起きたことに注目した.
 彼はこの船の来歴を洗った.
 「コバヤシマル」は船籍はパナマだったが,傭船会社は香港に事務所を置いていた「コバヤシマルK.K.」.
 海軍から払い下げられたリバティ船2隻「コバヤシマル」「キバヤシマル」を保有するだけの,小さな小さな会社だった.
 「コバヤシマル」沈没の1年ほど前に設立され,その沈没によって経営が悪化.
(持ち船が半減したのだから,まあ当然だが)
 間もなく会社を畳んでいた.

 そんなちっぽけな会社が,なぜ米国の重要な戦略物資の輸送契約を結ぶことができたのか?
 理由は三つあった.
 一つはダンピング紛いの超低運賃での応札.
 もう一つは,大手船会社が,紛争地域の港に自社の船を入れるのを躊躇ったこと.
 そして最後の一つは,担当部門への賄賂攻勢.
 サンダースらの推計では,贈賄金額だけで大赤字になるはずだった.※3
 これは臭い.
 普通の出資者なら,こんなやり方には異議を唱えるところだ.

 だが,異議はなかった.
 出資者が普通ではなかったからだ.
 「コバヤシマルK.K.」に出資していたのは,インドに本社がある持ち株会社「ハッサン・ホールディングズ」だが,典型的な迂回融資で,「ハッサン・ホールディングズ」を通じて「コバヤシマルK.K.」に融資していたのはマリネラ王立銀行だった.
 沈没当時,コバヤシマルに乗船していたのは皆,マリネラ海軍出身者だったということもサンダースは突き止めた.

 MI6では,沈んでいるコバヤシマルを調査することにした.
 しかし,英海軍の深海潜航艇が,キューバ危機が起きたばかりのキューバの領海近くで隠密活動すれば,大きな国際問題になりかねない.
「ならば,大っぴらに活動すればよい」
と,ディック・ホワイト長官は言った.※4
 1963年,BBCは「バミューダ・トライアングルを科学的に検証する」と題する科学ドキュメンタリー映画の撮影を始めた.
 撮影班は,何も知らないキューバ海軍の協力を取り付け,キューバ海軍艦艇の目の前で,堂々と深海潜航艇「LR2」に乗り組んで,コバヤシマルを調査した.※5
 彼らは潜航艇のマニュピレーターを使い,コバヤシマルの船倉から,積み荷の鉱石の採取さえ行ったのである.

 採取された鉱石は,直ちに英国原子力研究所(AERE)へ運ばれ,そこで成分分析が行われた.※6
 結果,その石はただの砂利石であることが分かった.
 バミューダ沖に沈んでいるのはコバヤシマルではなく,同船とすりかえられたキバヤシマルだったのである.
 マリネラは,船をすり替えて,その船いっぱいに積まれたウラン鉱石を,まんまと手に入れていたのだった.

※1
福原直樹『黒いスイス』(新潮社,2004)
http://www.amazon.co.jp/dp/4106100592

※2
L. A. Sawyer & W. H. Mitchell『Liberty Ships: The History of the Emergency Type Cargo Ships Constructed in the United States During the Second World War』(Informa Pub,1985)
http://www.amazon.com/dp/1850440492

※3
Significant federal tax legislation, 1960-1969 (CRS report)
http://www.amazon.com/dp/B00070XLZE

※4
https://en.wikipedia.org/wiki/Dick_White
および
ピーター・ライト『スパイキャッチャー』(朝日新聞社,1996)
http://www.amazon.co.jp/dp/4022611332
より.
 顔写真は
https://www.mi5.gov.uk/home/about-us/who-we-are/staff-and-management/sir-dick-white.html
より引用

※5
http://www.swzonline.nl/system/files/archive//197807.pdf

※6
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-01-03-06
5 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年06月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930