学習障害の原因はまだはっきりとは分かっていないそうですが、脳の中枢に何らかの問題を抱えて生まれて来ていると考えられているそうです。
原因が分かっていないということを疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、例えば自閉症も原因がはっきりしておらず、魚介類などに含まれる水銀がその一因なのではないかと考えられている程度です。
いずれにしても、原因はどうであれ、生得的なものであり、抜本的に学習障害が治ったりということはあり得ないということです。
そうは言っても、見た目も普通で、コミュニケーションも至って普通にできる我が子を、学習障害と割り切れる親御さんは実際には少なく、ほとんどのケースが、成長が遅いだけでいつかできるようになるだろうと考えてしまいがちです。
親御さんの中には、高学歴な方も多く、ご相談を受けていると、ご両親がいかに優秀な大学を出ているかということを力説されることも少なくありません。
お子さんの勉強が何をやっても上手くいかず、御自身の子供の頃と比べてはるかに劣っていれば、親として焦り、悩み、何とかしたいと思うのは当たり前です。
塾も、少しやって結果が出ないと、次から次へとやめさせては替える方も多く、それは親御さんの判断ですので、後悔のないように気が済むまでやった方が良いとも思いますが、上手くいくことはまずあり得ません。
学習障害は、そもそもが環境の問題ではなく、学習のアプローチが多少変わろうとも、抜本的に成績が向上したりするようなことはないのです。
経験上、学校の先生から学習障害ではないかと言われたことがあったり、専門機関で検査を受けたことがあったり、他の兄弟姉妹と比べて、小さな時から成長の進度や一般的な優劣とはかけ離れた違いを感じているような場合は、程度の差こそあれ、何らかの学習障害を持っていると考えた方が良いと思いますし、その方が最終的にはその子のためになるはずです。
では、そのようなお子さんの対応はどのようにすれば良いのでしょうか。私かつて接したとある２つの御家族の話をしてから、その問題について考えてみたいと思います。
今からもう10年以上前の話です。Ｂ君は小学校５年生の時に、うちの塾に来た見た目は至って普通の子で、ＳＦ映画を観るのが大好きでした。
ただ、勉強の方はと言うと算数の計算がややできる程度で、文章などは一緒に最後まで読んであげても、短いものですら、最初に何を書いてあるか忘れてしまうような感じでした。
お父さんは一流大学を卒業して大手企業に勤めておられ、お姉さんも優秀な私立中学に通っており、Ｂ君を大変心配したご両親は、すでに国立の専門機関で彼を検査しておられましたが、いわゆるグレーゾーンという結果となり、普通学級で普通の子として頑張るようにと言われて帰されて来ていたのでした。
面倒見の良い個別指導といううちの塾の噂を聞いて御連絡を頂き、まずはできることから始めましょうということで入塾頂きました。
すでに塾を転々としていた彼は、当初はやや心を閉ざしがちでしたが、その頃は私もまだ若く、時間的な余裕も結構あったので、塾以外でも、自宅に招いて一緒に映画を観たりもして仲良くなりました。
当時は私も学習障害の認識に乏しかったので、大人が働いているところを見せれば、気分も変わるのではと考えて、知り合いの工場に連れて行って見学させるようなこともしました。
そんな感じで１年程通ってくれていましたが、ある時突然お母さんから塾をやめるという連絡があり、色々やってもらって感謝しているが成績が上がらなければどうしようもないと言われ、中学入試のために進学塾に通わせてみると聞かされました。
こちらとしても残念ではありましたが、ご両親の判断であれば仕方ありません。
そのように塾を途中でやめれば、通常はお付き合いがなくなってしまうのが当然ですが、彼の場合はその数年後にまた大きな関わりを持つことになったのでした。
数年が経ったある時、塾にお母さんから電話があり、実は御家族で大変もめてしまっており、間に入ってもらいたいというのです。
Ｂ君は結局、普通の公立中学に進み、勉強があまり難しくない高校に何とか入ったものの、そこも長続きせずに中退し、その時は何もやっておらず定時制高校を考えているとのことでした。
お父さんはＢ君に「お前は俺の子供じゃない…」と言い、毎日が罵声怒声の応酬となり、お母さんの言うことにも全く聞く耳を持たず、相談できるのが私くらいしか思い付かないので、何とか助けて欲しいという悲痛の訴えでした。
〜次号に続く〜
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