いよいよ真打ち登場、庵野監督です。あげる題材は当然エヴァンゲリオン！（さすがに恐怖感すらあります）
エヴァという作品を語る際にその全容を掴んでいる人は、おそらく監督を始めとする製作陣を含めた全人類に一人もいないと思われます。いたら多分もっと早く、しかもきちんとした形でエヴァンゲリオンは完結しているでしょう。
だからみんなそれぞれのエヴァンゲリオンがある。それを前提にして読んでいただきたいです。
エヴァのファンには大きくわけて二種類のファンがいると思います。
２０話ほどまでの（エヴァが使徒を捕食する前後）エンタメとして優れたエヴァのファン。
最終回、旧劇場版を含めた哲学的、実験的な描写を含めて全て愛しているファン。
私は後者です。エヴァという作品がこれだけ呪いともいうべき作品に仕上がったのは、この最終回を含めた実験内容もあっての結果だと思っています。なので今回、特にあの激論を交わされたテレビ版最終回、『世界の中心でアイを叫んだけもの』を中心に語っていきます。
ちなみに今回あらすじはありません。エヴァのあらすじなんて語ることは非常に難しいし、これから話すことであらすじなどというものは必要性が皆無だからです。（※１）
エヴァという作品のファンは他の作品のファンに比べて、非常に熱い人が多い。元々オタクというのは好きなキャラクターを嫁と形容するように、作品と現実の自分を混合している場合があるが、エヴァという作品はその限度をさらに超えているように思います。例えば「碇シンジは僕だ」と語り始めるファンは実は少なくないのではないでしょうか。
それは太宰治の『人間失格』等の諸作品を読んで「太宰は僕の最大の理解者だ」と考える人や、『ライ麦畑で捕まえて』で「ホールデンの気持ちは世界で一番僕がわかっている」と答えるファンが多いのと同じです。
そこまで作中のキャラクターと自己を同一視できる作品は非常に少ない。特にアニメとなると私は他に思いつきません。（※２）
そもそも最終回で『補完』されていく碇シンジというのは一体何者なのか？ そこから考えていきます。
もちろん一番多いのは『エヴァンゲリオンの主人公のキャラクター』という答えでしょう。しかし、これはメタの視点になってしまいますが、補完されていく碇シンジとは『庵野監督』であり、『アニメの製作陣』であり、『視聴者』であり、『アニメそのもの』でもあります。あの最終回は単一の読み取り方ではなく、複数の、しかもメタも含めた様々なものを読み取ることができるという壮大な『問いかけ』であったように思います。
今回は『アニメそのもの』の補完計画について考えていきます。これは私がエヴァについて色々考えている時に、アニメ評論家の氷川竜介さんが提唱していた考えです。
最終回のエヴァでは、突然シンジを取り囲むように登場人物が問答と始める。このシンジとは『アニメ』です。（※３）
アニメとは何か？
アニメ文化そのものが宮�廼仍�件以降、どことなく否定的な文化になってしまい、様々なメディアや潜在的に気持ち悪いものという風に『嫌われてしまう』。それでもアニメはエヴァに乗るという物語を作らなければいけない。
でもアニメは一体何の為に作られるのだろうか？
その問いが延々と続いていきます。
ではそもそもアニメとは何かという根本的なところにたどり着きます。
まず生まれたのは白紙の上にシンジが飛ぶ『自由の世界』です。これだとキャラクターデザインだけなので、アニメとしては非常に不安定です。それでもこれはキャラクターという絵が動いているのでアニメです。
そこに地が生まれて、歩きます。その時点でキャラクターは地を歩かないといけないという制約が生まれます。しかし、本来アニメにおいてはその制約はあってないのと等しく、作画上、地面が天にあって体が逆さまになってもいいわけです。
そうなるとキャラクターデザインも人間にこだわる必要はありません。星形だろうが幾何学模様だろうが、何でも構わないわけです。それでもアニメに変わりありません。
しかしキャラクターとして成立するためには、他のキャラと違う何かがないといけない。そうでないと主人公であるというキャラクターは成立しません。だから他者や他の造形物を要求します。
そして唐突に平和なラブコメが始まります。エヴァという作品は、もしかしたらこういう作品になったかもしれない『別の可能性』があったわけです。それはエヴァに限りません。アニメである以上、いや、物語作品である以上『別の可能性』は無限大にあるわけです。
その『別の可能性』を選んでもアニメに変わりありません。
そして色付きの絵コンテになります。これも連続した絵が自動的に動いている以上『アニメ』です。
それならば台本が書かれた絵があって声優の声がのれば『アニメ』です。そこ描かれているのが絵ではなく、文字であるだけです。
描かれたものが記号であり、その記号が動けばアニメになります。
これが根源的な『アニメ補完計画』です。（意味が通じているか不安です）※４
これがかなり無理くりな説だとしても、一つの作品を語っていたら、アニメそのものを語ることになる作品というのは普通ありません。そこまで考察しても、受け入れてしまう器がエヴァにはある。
だからみんな好き勝手いえるのでしょう。
エヴァンゲリオンという作品は、私は永遠に完成しないと思います。なぜならばこんな壮大な実験物が完成する姿が、いくら庵野監督といえども不可能に近いからです。
それでもおそらく我々は、アニメという媒体があるかぎり、永遠にエヴァで遊び、考え、論ずることができる。
そんな作品は後にも先にも現れないでしょう。
次回予告『涼宮ハルヒの変革 オタクそのものの変化』
（※１ 私はエヴァのストーリーを語る意味は皆無だと思っています。なぜならば、元々脚本が破綻しているからです。隠された謎がいくらでも深読みできてしまい、視聴者一人ひとりがいくらでも物語を作れてしまうし、しかも答えはどこにもない。それは私の究極の理想とする物語の形態のひとつですが、だからこそストーリーを語る意味はありません。むしろ、エヴァを見て何を思ったか、どう感じて考えたか、それを語ることが大事ではないでしょうか）
（※２ アニメに限らず、主人公が姿を見せてしまう映画やアニメは感情移入に至るまでのハードルが高くなってしまいます。なぜならば、役者などの明確な姿があり、そこに自分を重ねることは難しいからです。例えばジャニーズやアイドル女優がでている映画に、自分を重ねて私はジャニーズだ！ とは思いにくい。私が北川景子だ！ なんて言ったら奇異の視線に晒されること間違いない。なので感情移入しても笑える、泣けるなどの軽い自己投影に留まりやすい。一方、小説や歌などは明確な姿がないぶん、内面や考えのみで構成されているため、私がホールデン少年だ！ などという過剰な自己投影が容易です）
（※３ 例えばお笑い芸人の鉄拳のパラパラ漫画は、私にいわせればアニメです。原理は全く同じです。あの白と黒の二色しかない鉛筆と紙で描かれたものもアニメです。そう考えていくと、絵が動けば何でもアニメになるのではないでしょうか？ その絵が字というものであっても）
（※４ 実際は単なる作画スケジュールの崩壊だと思ってます。普通、アニメは動かすことで魅せるのですが、エヴァは止め絵で長く魅せるシーンが非常に多いです。24話の渚カヲルの死は1分近い止め絵が第九と相まってのアニメ史屈指の名シーンですが、あれは作画スケジュールからあの方法しかなかったのではないでしょうか。庵野監督の本当の天才性は、そのような逆境、悪環境状態から素晴らしい演出方法を生み出したところでしょう。ストーリーも同じで、20話まではうまく練られたけれど、そのあとが間に合わなかったor思いつかなかっただけかもしれません。その時に偶然生まれた『間』が様々な考えを受け入れる度量の大きい作品になった最大の要因ではないでしょうか。エヴァという作品は人々の心に強く残り、様々な取り方ができる『究極の失敗作』だったのかなと思うときすらあります）
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