１４ 責めを負うべき者（承前）
「第二の殺人では、ふたりの犠牲者以外の人間は、犯行現場にいませんでした。だから、一升瓶は置き去りにされ、電気も点けっぱなしでした。ならば、第一の殺人でも、ふたりの犠牲者以外の人間は、犯行現場にいなかった。だから、道具箱と綱は犯行現場に残ったのではないか。では、そのふたつは一升瓶のように犯行に必要だったのだろうか。私は自問自答しました。
「そう。必要でした。道具箱は重く、強い風雨の日でも、置いた場所から動いたりしません。おまけに、つまずけば音がします。人がつまずいた瞬間、そこにつまずいた人間がいることを教えてくれるのです。そして、あらかじめ、吊り下げられた綱の端を持って、明かり取りのところに登って待ち構えていた小柄な人間が、その音をきっかけに、振り子の要領で――あるいは、ターザンのようにと言ってもいいですが――つまずいた人間に、勢いよくぶつかっていって抱きつけば、そのまま、ふたりとも川に落ちてしまうでしょう。つまずくだけでは落ちなくても、そこに人間が弾丸となってぶつかれば、ひとたまりもありません。ふたりとも、川に落ちるのですから、当然、使い終わった道具箱を持ち去る人間はいません」
私は息を呑んだ。そして、ディオスが考えていること、彼の考えている事件の真相が、私の脳裡にも一気に浮かんだ。
「もちろん、そんなことをするには、良い運動神経と、無謀に近いほどの思いきりの良さが必要です。雙松（ふたまつ）には、それがあるのではありませんか？ 少なくとも、ノートに記された雙松には、それがあるように、私には思えます。雙松はリュックを背負わされたのではない。自分で背負った。その理由は、自分が流されず、発見を遅らせるためでもあったが、それだけではなかった。自分より体重も力もあるワニブチを、仕留めるためでもあったのです。手すりを事前に壊したのは、川まで確実に落ちるためです。しかし、雙松はなぜ、そんなことをするのか。いたずらですか？ まさか。これが実際に起きたことだとは考えにくいでしょうか。確かに考えにくい。でも、手がかりの事実とは符合します。彦島夫人が葬列に先立って神社に向かったときに、松浦郷（まつらごう）の付近で雙松を目撃していますが、それは堰が閉じていることを確認しに行く途中だったのでしょう。だから、人目を忍んでいたのです。
「だが、そうすると、第二の事件も同じことだと分かるのです。ご丁寧に、池添がひとりでいる機会をうかがいに来た美松（みまつ）が、またしても彦島夫人に目撃されました。幸いなことに、雨合羽に隠れて、紋服姿には気づかれない。美松は一升瓶に入れた濁り酒を持参して、池添に近づく。池添は濁り酒を呑める立場にはなかったから、松浦��の人間が濁り酒を持って来て、受け取ってくれと言えば、喜んで受け取ったでしょう。まして、このときは、村における政治家としての第一歩を踏み出すところです。村の重鎮である松浦��に認められたと思えば、喜んだかもしれません。正式にあなたの家でお渡ししたいと紋服の使者に言われれば、持ち場を離れて、白い家の自室に案内し、一張羅を着込んだことでしょう。美松の方から、そういうはれがましさを要求しただろうと、私は推測しています。そうすることで、警戒心を抱かれるのを避けようとしただろうし、なにより、そんな交際の儀式めいた席にすることで、美松が口をつけ、さらに杯を重ねれば、池添も拒めない。癖のある、喉を通りにいくい酒であっても、松浦��と不仲にはなれないという心理が働くからです。
「第二の事件で残された手がかりによる推理は、第一の事件にも同様の、ぴったりとした解決をもたらしました。しかし、この解決は受け入れづらいものでもあります。六つの子どもが、なぜ、そんなことをするのか。しかし、受け入れづらいものでも、他の解釈がなければ、受け入れなければならないでしょう。そうすべきなのか？ そのために、私は第三の事件に同じ解決があてはまるかどうか検討することにしました」
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