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2015年05月18日10:32

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正史にオマージュ 第99回


14 責めを負うべき者(承前)



 ディオスはそこで間を取った。答えを求めている顔つきだ。私は思いついたことを言ってみた。
「犯人は、とっくりが捕捉可能なほどきちんと管理されていることを、知っている人間」
 ディオスは微笑んだ。
「確かに。しかし、もっと重大なことがあります。……いいですか。犯人は犯行現場に手がかりを残したくなかった。結構。なら、犯行後、持ち去ればよいではありませんか」
 ディオスはにこやかな顔で私を見て、その視線を、そのまま祖父に移した。
「とっくりから犯人が分かるのなら、とっくりを持って帰ればよいのです。持ち帰りさえすれば、毒が濁り酒に混入されていたことさえ、露見しないかもしれません。それを、わざわざ、現場に残すために一升瓶に詰め替えた。これと、電気が点けっぱなしだったことが示す事実は、ひとつです。犯人は、犯行後、電気を消せなかったし、毒を仕込んだ一升瓶を持ち去れなかったのです」
「じゃあ、犯人は、その場にいなかったの?」
 私の声は思わず大きくなっていた。そんなバカなと思った。接点のない組合せの大人と子どもに、毒の入った酒を飲ませる。それを、その場にいないような、不確実な方法でやれるものか。仮に、やれたとして、実行に移すものなのか。
「このことに気づいた瞬間、私は、第一の事件で見過ごしていた手がかりの重要性に、思い当たったのです。そして、まったく異なった方法で行われたにもかかわらず、第一と第二の事件に、不思議な共通点があることに、私は気づきました。その手がかりというのは、壊された手すりの前に置かれた道具箱と、ぶら下げられた綱です。道具箱は何かのおまじないでしょうか。しかし、犯行現場と目されるところに残されたという点では、一升瓶と同じです。それなら、同じ理由で残されたのかもしれない。私はそう考えました。その理由は? 犯行後、犯人は持ち帰ることが出来なかった。こう考えてみたときに、私はこの連続殺人の全貌が、はっきりと見えました。そうすると、三番目の殺人で生じた奇妙な謎も解けたのです。つまり、なぜ、松男さんが國松さんを呼んでいるというような奇妙な口実を犯人が設けたのか」
 ディオスは祖父に視線をやったままだ。祖父の三日月形の左眉が、ぴくりと振るえて、持ち上がった。目には疑問の色が浮かんでいる。何事か問いかけたいようだった。ディオスは祖父の目を覗き込んでいる。やがて、再び、話に戻った。

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