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2015年05月18日01:41

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正史にオマージュ 第97回


14 責めを負うべき者(承前)



「小郡(おごおり)イサクの失踪は、直接には、連続殺人との関連があるとは思えません。ただ、まったくの無関係とも私は考えていません。
「では、三対の死のうち、最初の事件について考えてみましょう。ふたりの人間が溺死しました。雨のため川の流れが速く、ワニブチの死体は村のはずれまで流されたのに、雙松(ふたまつ)の死体は滝壷のところで見つかりました。雙松の身体は、無論、神社裏の崖から川に落ちたのでしょう。では、ワニブチは、いつ、どこから落ちたのか? 初音さんは良い疑問を提出しています。五時すぎにいなくなったワニブチは、川に落ちるまでどこにいたのか? 生前の國松さんが推理したように、ワニブチは姿を消す直前に、小郡イサクと会えることを期待し、そのために急いでいたようでした。とすると、小郡家を出たワニブチはイサクに会いに行ったと考えるのが、自然です。おそらく、イサクと会わせるとか、イサクが待っているとか、そういったことを吹き込まれて、おびき寄せられたと思いますが、とにかく、ワニブチはイサクに会おうとしたはずです。しかし、雨の中を戸外で長時間待つとは思えません。待つとすれば屋内でしょう。しかし、川に落ちるには戸外に出ていなければなりません。このふたつは、相反しています。どこかの室内に自ら隠れていて、夜になって戸外で会うという可能性は、失踪直前のワニブチの行動からは考えられません。夜まで待っている間、姿を消している理由がないからです。むしろ、状況は、ワニブチはすぐにイサクに会いに行ったと思わせます。ワニブチが失踪してから、殺されるまでに時間があったとしたら、それはワニブチの自発的なものではありません。
「さて、もうひとつ問題があります。神社裏の壊された手すりです。この手すりは、雙松を落とすために壊されたものではありません。雙松は重いリュックを背負わされ、自由を奪われていたのですから、わざわざ、手すりを壊す必要がないからです。だから、ワニブチがここから落ちたことを示しています。これが擬装である可能性が議論されていますが、そのことを考える前に、犯行時刻のことを考えてみましょう、神社裏の手すりは午後六時すぎには壊されていたのが見つかっています。もしも、壊れた手すりが擬装でなければ、そのときには、もう犯行が行われた後だったということになります。では、もしも擬装ならばどうでしょう。やはり、犯行は手すりの細工と同じころだと考えられるのです。仮に、早い時間に擬装をし、後でワニブチを川に落としたとしましょう。その場合、擬装と犯行の間に、壊れた手すりを誰かに見つけられ――実際、初音さんに見つけられました――それをワニブチ失踪と結びつけて考えられたら、すぐに川の捜索が始まるでしょうから、その後の犯行は困難なものになります。手すりが壊れていただけではなく、地面には落下の跡もあったのですから、その恐れはあったでしょう。初音さんは、手すりを事件と結びつけなかったけれど、それは犯人にとって、単なる幸運にすぎません。その後、夜の早い時間は神社に人がいましたから、いつ見つかってもおかしくない。犯人が擬装したのなら、壊された手すりは、ワニブチの溺死と関連づけられることを想定していたはずです。したがって、犯人は、犯行と擬装とを同時か相次いで行う必要がある。すなわち、手すりが擬装であろうがなかろうが、初音さんが壊れた手すりを見つけた六時までの早い時間に、ふたりは川へ落ちているのです」

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