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2015年05月16日17:25

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「イミテーション・ゲーム」

木曜は仕事でした。夜勤です。

金曜の朝刊に「安保法制閣議決定」のニュースが出ました。
いつもお世話しているおばあちゃんは
なかなか厄介な認知症状のある方ですが、
目がよく見えないのでいつもは見ない新聞の見出しを指して
「何を考えようとかいね!
また戦争ばするつもりかいな!
専守防衛っちゃ、戦争の前のごとある。おそろしか!
戦争だけは絶対しちゃならんと 忘れとるとじゃなかね!
いっぺん戦争ばしてみたかっちゃろう。これだから男はつまらん!」と
声を大にして立腹されました。

さっき食べたごはんも忘れるおばあちゃんです。

思惟太はこっそり感動したですよ…。



本日は、
やっと書きました。「イミテーション・ゲーム」です。





「イミテーション・ゲーム」 ’14 (英・米)


監督:モルテン・ティルドゥム 原作:アンドリュー・ホッジス
脚本:グレアム・ムーア 撮影:オスカル・ファラウ
美術:マリア・シャーコビク 衣装:サミー・シェルドン・ディファー
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ 音楽:アレクサンドル・デスプラ
m:ベネディクト・カンバーバッチ,マシュー・グード,マーク・ストロング
  チャールズ・ダンス,アレン・リーチ,マシュー・ビアード
  ロリー・キニア,アレックス・ロウザー
f :キーラ・ナイトレイ

’14 トロント国際映画祭 観客賞
’14 ハリウッド映画賞 監督賞,主演男優賞,助演女優賞,作曲賞
’15 アカデミー賞 脚色賞


暗号機「エニグマ」は様々な映画に登場したし
ブレッチリー・パークでの暗号解読作業も
映画やドラマやドキュメンタリーになっていると思う。
「エニグマ」解読の立役者がアラン・チューリングで
ブレッチリー・パークでの仕事が英国政府の機密扱いであり
1974年まで 彼の功績を誰も知らなかったことも
彼が賞賛や評価を受けることなく1954年に亡くなっていることも
既知の事実だっただろう。
映画は、
ブレッチリー・パークでの「エニグマ」解読の経緯をサスペンスフルに追いながら
1952年の同性愛による逮捕の経緯を対照させ、
チューリングのセクシュアリティによる悲劇を描いてみせる。
モルテン・ティルドゥムというノルウェー出身の監督を知らないのだが
映画は非常に解かりやすい語りになっていて、
チューリングの逮捕劇から彼の性的嗜好が提示され、
回想のブレッチリー・パークの暗号解読プロジェクトで
チューリングの特異な性向をアスペルガー症候群で説こうとし、
更なる少年期の回想によって
初恋とその終りを抒情で紡いでみせ、
残酷極まる同性愛者の最期をヒロイン ジョーンに目撃させる…
という仕様は、
どんな人も読み違えることのないチューリング像を織り出している。
同じアスペルガーでも
『ソーシャルネットワーク』のザッカーバーグのように
容赦ないキャラ造形に冷や汗をかく…感じではなくて、
アスペルガーについては理解ある優しい眼差しでチューリングを描き、
同性愛については
時の英国の法や倫理観を非道として糾弾する口調で、
それらが戦時下のエニグマ解読のサスペンスと共に語られているのだから
実に興味深く面白い映画なのは間違いない。
アラン・チューリングの名誉回復と業績の顕彰…を担う映画であるならば
まことによく出来た作品なのだけれど、
彼について知っていることの概要以上…はなかったかな?
というのも正直な感想で、
『プリックアップ』によって個人的には知ってはいたけれど
同性愛が違法であった時代のイギリスの空気や
差別や侮蔑が社会的抹殺を呼ぶ構造が一切登場しなかったなぁ…とか、
チューリングのランニングが単にジョギングではなくて
アスリートレベルの高度なものであった…というのも
もっとちゃんと描いて欲しかったと思う。
花粉症でガスマスクを被って自転車通勤した…エピソードからも
彼にとって身体が 明晰なる理性と裏腹に
アタマだけでは統御できない厄介なしろものだったのではないか?
と想像すると、チューリングについて
深化したキャラ造形を提出することは可能だったはずで
ベネディクト・カンバーバッチのスキルをもってすれば
この尺、この構成のままでも
もっとチューリングの“人間”を語れたんじゃないか…?
カンバーバッチが演じるからこそ
それを観てみたかったと思ったのだ。
そう思わせるくらい
アラン・チューリングという人の天才と悲劇は
興味の尽きない魅力的なものだ。
それをきちんと明かしたという点で
映画は成功していると思う。
佳作。

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