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2015年05月08日06:33

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正史にオマージュ 第90回



12 三組目の殺人(承前)



「大叔父と等松(ひとまつ)の死体はどうなってるの?」
「広間に置いてあるよ。縄もそのままで。結び目を解いてないから、はっきりは分からないけれど、ふたりとも、あの縄で絞められたみたいだな」
「どういうこと、それ」
「だから、何かで首を絞めたあとで、縄を結んだんじゃなくて、あの縄で絞めたみたいなんだ」
「そんなこと出来るの?」
「出来なくはないだろう。縄そのものはかなりあるから」
 ふたりのぶら下がった姿を、私は思い返した。吊り下げられたふたり。等松は高く、大叔父はほとんど足が着きそうだった。そこから縄の長さを推定する。確かに五メートルくらいはありそうだった。しかし、弟子待(でしまつ)は大切なことに気づいていない。
「そりゃ、単純に、縄の両端でそれぞれ人を絞め殺すことは、不可能ではないかもね。相当、不自然だけど。だけど、そのあと、どうやって滑車に通すの?」
 弟子待はぽかんと口を開けた。
「あっ」
「何が『あっ』よ。しっかりしてよね」
「だけど、かなりきつく首に食い込んでたよ。それ以外の跡はないようだったし……」
「はっきり調べたわけじゃないでしょう?」
 これは少し意地悪だったかもしれない。はっきり調べるなど、素人の弟子待に出来るわけがない。
「そうだけど……でも、そうしたら、なぜ、絞殺した後で、一本の縄の両端でふたりの首を括ったんだ?」
 私には答えられなかった。
「ねえ、こういうのは? 初めに、等松を絞め殺しておいて、縄を滑車に通す。その後で、縄の反対側で國松さんを絞め殺す。こうすれば、やれるんじゃないかな」
「なんで、わざわざ、そんなことするの?」
 私が言うと、弟子待は黙り込んだ。自分でも無理に無理を重ねていることは承知なのだ。私は一応、弟子待の案を考えてみた。しかし、無理だ。滑車の向こうとはいえ、等松の身体がぶら下がっているのだ。その重さは、かなりの抵抗になるだろう。等松の身体が地面の上に横たわっていたら、重さの邪魔はないが、今度はその分縄の長さが不足する。どちらの状態でも、縄の反対側で大叔父の首を絞めるのは、かなり難しいのではないだろうか。少なくとも、意識のある人間を殺せはしないだろう。では、大叔父は気絶させられていたのか。それでも、また、同じ疑問に戻ることになる。なぜ、同じ縄の両端で首を括ったのか。
「初音さんの言ってた被害者ペア説からすると、どんどん、被害者ペアの絆が強くなってるんだね。最初の事件では離れ離れで見つかったのに、次は同じ部屋で、最後は同じ縄の両端ときた。ただ、それには、果たして意味があるのやら……」

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