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2015年05月07日14:23

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正史にオマージュ 第89回



12 三組目の殺人(承前)



「いま、思い出してみてるの。……あのねえ、私が隠居所から戻るとすぐ玄関のところで大叔父に会って、納屋で松男叔父がって話になった。大叔父は急いで確かめに行くって様子だった。そうよ。だから、たぶん、大叔父は松男さん云々の話を聞くなり調べる気になった。そこに、私が行き会った。そんな感じだったな」
「なるほどね。確かに、そういう怪談話めいたことを耳にしたら、すぐに確かめたくなるだろうな。夜中だとか危険があるとか、そういう状況じゃないんだから」
「ということは、二時ごろだっけ? 私が母屋に戻る直前に、大叔父は等松(ひとまつ)から、なにかを聞き出した。どこで聞いたんだろう」
「母屋としか考えられない。そこにいたんだから」
「ということは、等松も母屋にいた。あ、待ってよ。納屋で松男叔父が待ってるって言ったのかな。正確には分からないけど、そんな内容のことを言ったんだから、ということは、等松は納屋に行ってたんじゃない?」
「とは限らない。國松さんが言ってたみたいに、誰かが等松に吹き込んだかもしれないんだから」
「そうか。ただ、真相は分からないけれど、問題の三十分の間に、母屋でそれが起きたことは確かなんだ」
「でも、納屋にドミンゴさん……松男さんがいるわけがない」
「そうよね。……思い出した。大叔父は、雙松(ふたまつ)や美松(みまつ)だったら、いたずらか冗談だと思うところだって言ってたな。だけど、等松が真面目な顔して言うからって」
「でも、なんのために、そんな嘘をつくんだろう」
「大叔父は、等松が騙されてる可能性もあると思ったみたい。なにか不審なことが企まれてるって」
「そこが分からないんだ。これがなにかの計略だったとするじゃない? だけど、納屋で松男さんが待ってるなんて、不気味なだけだよ」
「そうなのよね。あなたの店に行く途中で、納屋が見えるでしょう。ちょっと寄って確かめようかって、私も一瞬思ったもん」
「あ、そうだね。見えるもんね。……じゃあ、なおさら危ないじゃない。かりに等松と國松さんをおびき寄せる策略だったとして、ついでに、初音さんやぼくまでついて来るかもしれない。もしかしたら、初音さんが、先に納屋にやって来るかもしれないんだ。まずいよねえ」
「事実、私、一緒に行きましょうかって、大叔父に言ったもの。そしたら、念のため神社の遺体を確認してくれって言われたんだから」
 もし、あのとき、大叔父と一緒に納屋へ行っていたら、どうなっていたのだろう。そう考えたとき、恐ろしい可能性に気がついた。
「誰でもよかったなんてことはないでしょうね」
「誰でも?」
「いかにも不気味な幽霊話を等松に信じさせて、最初にひっかかって、やって来た人間と等松を、犯人は殺すつもりだった」
「で、國松さんが当たり籤を引いたって?」
 口にすると、ばかばかしい。しかし、その可能性に気づいた瞬間は、背筋に寒気が走っていた。三つ児と大人を組み合わせて殺す、その理由が分からないので、ならば、理由などないのだと考えたのかもしれない。疑心暗鬼になっていたらしい。

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