１２ 三組目の殺人（承前）
「初音さんが、記録をとっている間に、ぼくも今日の事件を調べてみたんだ。ただ、分からないことがあって、昼食後にぼくが松浦��（まつらごう）を出てから、初音さんがぼくの店に来るまでのことは、誰も知らないんだ。たぶん、初音さんだけが知ってるんじゃないかな。そこを教えてほしくて、探してたんだ」
確かに、死んだ大叔父と等松を除けば、私以外では、彦島の奥さんと由美子さんしか、母屋にいなかったし、このふたりは事件をあとから知らされている。私は今日の午後の自分の行動と、大叔父との会話を弟子待に話した。
「ドミンゴさんの話が奇妙だよね」
「そうなんだけど、私も大叔父からの又聞きだから……そもそも、等松（ひとまつ）は、由美子さんと一緒にいたんじゃないの？」
「それは最初に、ぼくも由美子さんに確認しておいた。由美子さんと初音さんが隠居所に行くことになったでしょ。あのとき、まず、由美子さんが隠居所に行くって言い出したんだってね。だけど、そのことで由美子さんが部屋を出るときには、等松は眠ってたというんだ。今朝早くやって来た等松に添い寝しているうちに、由美子さんも眠っちゃった。午後の一時すぎに、由美子さんは目が醒めたらしんだけど、そのとき、まだ眠っていた等松をそこに残して、隠居所へ行くために起きて来た。結局、隠居所には初音さんとふたりで行くことになって、帰ってくると、すぐ、國松さんが初音さんに、ドミンゴさんが納屋で待ってるという話をした」
「私たちが隠居所へ行ってる間に、等松が大叔父に何か言ったのよね」
「その間、どのくらいの時間なの？」
「隠居所に長居はしなかったから、本当に往復の時間だけ。三十分ちょっとでしょう。一時間はかかってない」
「じゃあ、一時半から二時くらい？」
「そんな感じかな」
「ぼくたちが死体を発見したのは、これは腕時計を見たから確かだけど、四時二十五分。この二時間ちょっとの間の犯行なんだ。ぼくたちが死体を見つけて、母屋に知らせたとき、そこにいたのは、由美子さんと彦島の奥さんのふたり」
「それは、私が松浦郷を出たときもそうじゃないかな。もちろん、大叔父と等松は数に入れてないよ」
「絶対に？」
「絶対にってことはない。それは無理。誰かが隠れていたとしても、私には分からない。でも、どっちみち、私があなたの店に向かっている間に、犯人がやって来る時間はあったわけだから」
「それで、彦島の奥さんは、たいていは台所にいて、夕食の準備をしていたらしい。連日、あれだけの食事をひとりで作ってるのは、落ち着いて考えると、驚きだね。彼女は、等松を朝から一度も見ていない。初音さんと由美子さんが隠居所に行ってる間に、國松さんが何度か廊下を通る姿は見ていて、葬式の準備をしていたみたいだ。結局、等松は、朝からこっち、由美子さんと部屋で眠っていて、初音さんたちが隠居所に行ってる間の三十分強の間に、どうも、何かが起こったみたいなんだ」
「何かって何？」
「だから、納屋でドミンゴさんが云々さ。等松が、いつ國松さんにそれを言って、正確には、どういうことを言ったかなんだけど……ふたりとも死んじゃってるからなあ」
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