１２ 三組目の殺人（承前）
弟子待（でしまつ）は、自分の店のカウンターで、いかにも苦そうな顔をして、エスプレッソを飲んでいた。ボニータは小郡（おごおり）の家に行っていた。私が大叔父の話をすると、飛び上がった。すぐに、ふたりで神社へ向かう。弟子待は店の入口にかけてあった白の防寒コートを羽織った。背中にyahoo BBの文字が赤い。弟子待も気持ちはあせっているのだろうが、如何せん動きが鈍い。睡眠不足の赤い目に、雨が降りかかるのに、眼鏡はなんの障害にもならず、何度もしばたたいている。ふたりとも、喋るだけの余力がなかった。神社の石段の下に辿りついたときには、ともに不機嫌になっていた。
雨の中の往復は、精根尽き果てるのに充分だった。松男叔父の遺体に異変のないことを確認し、私と弟子待は松浦��（まつらごう）に戻った。私が松浦��を出て、二時間以上が経過していた。無言の道中がいかに疲れるものか身にしみた。早く戻って、パーコレーターでコーヒーを淹れることだけを考えていた。木造の牛小屋を過ぎ、その牛小屋がもたれかかっているかのような大きな樅の木を横目に見ながら、通りすぎようとしたとき、樅の木の向こうにある納屋の軒先に、何かがぶら下がっているのを見つけた。それは人間のように見えた。私は弟子待を呼び止めた。納屋を指さすと、弟子待もすぐに気がついたようだった。ふたりとも左に折れて、納屋を目指した。
ぶら下がっているのが何かは、すぐに分かった。三つ児のひとり。胸が締めつけられた。分かっていたのに、死なせてしまったのだ。しかし、等松（ひとまつ）は軒先にぶら下がっていたのではなかった。納屋の入口の上部に取り付けられた搬入用の滑車に、括り付けられたかのように、ぶら下がったまま首を括られていた。そして、納屋の正面に来て、私たちは初めて見つけた。三つ児の首を締めていた縄の反対側では、國松大叔父が、やはり同じように首を括られて、ぶら下がっていた。滑車の両端で、子どもと老人が首を括っていた。外側の子どもはびしょ濡れで、内側の老人は足許こそ服から滴った水で濡れていたが、雨合羽の表面は乾き始めていた。
「なんてことだ」
おそらく、女よりも男の方が体力があるのだろう。私には口を開くだけの力は残っていなかったが、弟子待は搾り出すような声で、そう呟いた。
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