縁側のガラス戸を開けると、目の前にあるニオイパンマツリの香りがフワーッと流れ込んできます。洗濯物を干しに出たカミさんは「よく育ってくれたわねえ」と深呼吸をします。種子島に移り住んだ年に植えた苗木が、今では軒先に届くばかりに育っています。
玄関の横では、種子島に来る前、4年半の札幌生活の際に買い求めたアマリリスが、咲いています。
ところで私達は種子島に来てもう19年、来年で20年を迎えるのですが、ニオイパンマツリもアマリリスも、同じ年月を私達と生活を共にしてきたわけです。
「そうか……来年で20年か……まさに光陰矢のごとしだね」
私がつぶやくとカミさんが続けました。
「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」
「あれ?そう続くんだっけ」
「違ったかな?」
ニオイパンマツリとアマリリスを眺めながら、昭和11年と14年生まれの老夫婦は、19年の種子島生活を振り返るのでした。
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