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2015年03月13日03:57

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発掘済み黒歴史ww 注釈つきww ホモ注意ww

 春というには少し蒸し暑く感じる頃。頬を撫でる風が酷く心地好い。
広いグラウンドをのんびりした歩調で歩き続けて、もうどのくらい経っただろうか。自分の直ぐ横を陸上部の生徒が走り抜けて行く。それももう何度目だか数える気もさらさらない。ゆったりと弧を描くトラックラインの内側に沿って歩みの方向を変えて……。

「こらぁ!水澤ぁっ!」
 耳をつんざくような怒声と共に降って来た拳骨。緩みきっていたところへまともに食らってしまった。
「……っつつつ……。なんやの、センセー。俺ちゃんとやってますやんかー」
 頭をさすりながら背後を振り返る。いや、振り仰ぐ。春になり無事に進級したのはいいが、図体ばかり大きい熱血体育教師がクラス担任になってしまった。妙に冷めた考え方をする自分とは対極に居る熱い彼とは何から何までソリが合わない。結果、なにかれとなく呼び出しの対象にされてしまう。今日もまた。

「俺は『校庭10周』と言ったはずだが。お前はさっきから何をやってるんだ、何を」
「せやから、10周してんねや。ええと……ひいふうみ……いま四周半やね。もうちょっと待っとってんか」
「誰が歩いてまわれと言った?!普通は走って10周だろうが、走って!」
「ええー? 歩いたらアカンなんて言わへんかったやろ?俺、真面目にやってますやんかー。部活の邪魔んならんように、ラインの内側歩いてるしやね……」

 ごつん。

「あいててて……」
 言い終わらないうちに新たな拳骨が落とされる。
「ズルをするんじゃない!陸上の選手と一緒に走ってこい!」
「嫌や。そんなん無理やー。俺かよわいんやでー?今日だって病弱な俺がちょっと眩暈起こしただけやのに」
「机に突っ伏してイビキまでかく眩暈があるか! 校庭10周追加!合計15周半走って来い!」
「……ちぇ」
 こいつと言い争ってもろくなことにはならない。体力馬鹿に理屈は通らないことは既に身に染みている。せめて彼が見張っている間だけは走っている振りをしておかなくてはならないだろう。むっすりと不機嫌まるだしの顔で地を蹴った。
 校舎の直ぐ横をちんたら走りながら、グラウンドに面した広い窓から雑然とした教務室を眺めて通る。放課後のこの時間なら教務室にいる教師も多い。そのなかに細身の男の姿をなんとなく探しながらゆっくりゆっくり走ってゆく。

 辻ちゃんの席は廊下側の……柱の隣の隣の隣……コピー機の手前の……
首を伸ばして、ときどき小さく跳ねるようにして部屋を覗く。流石に遠くて良く見えない。じりじりと校舎に近付くようにラインを逸れて行く。
 やがてすっかりトラックラインから外れて教務室の窓際にへばりつく。窓枠に両手をかけて室内を覗き込んでみれば、うずたかく積みあがった書類だか教科書だか。その向こうに求める彼の姿が見え隠れしている。少々小柄な身体で精一杯の背伸びをしながら窓の内側の彼へ手を振る。気配を感じたのか、彼がふっと顔を挙げ……自分と目が合った。

「辻ちゃ……」
 かけようとした声が、途切れた。
自分を見つけた彼の表情が、びくりと強張ったからだ。以前見せていたような優しい笑みではない。他の生徒に見せるような柔らかな表情ではない。恐怖と、そしてほんの少しの憎悪と嫌悪と。ほんの一瞬垣間見えた感情を隠すかのように、彼は顔を背け……席を立って教務室を出て行った。まるで自分がここに居たことに気付きもしなかったように。

「辻ちゃん……ホンマに俺のこと、嫌いやねんな……。誰がお前のこと、守ってやってるとおもてんねん……。俺、誰のためにあんなこと我慢してきたとおもてんねん……」
 再びぽてぽてと走りながら、小さく呟く。全ては彼のためだったはず。彼が受けるかもしれない災難を、全て自分が受けることで彼を守ってきたはず。それを思えば、ただ哀しくて情けなくて。だが、今はもう彼を守る必要はない。無理矢理やらされてきた仕事ももうない。身体に穿たれた小さな傷からも完全に解放され、元の生活に戻ったのだから。
 だが……そんな思いをしてまで守り続けた彼の態度は冷たい。自分が彼にした仕打ちを思えば文句は言えなかったが、それで納得できるほど大人びてはいない自分。細い細い氷の針で胸を貫かれたような痛みを抱えながら、トラックを走る。クラス担任の体育教師は、陸上部の指導に忙しい。自分が走っていようと歩いていようと、もうどうでもいいのだろう。走る足が徐々に速度を落とし、やがてぴたりと止まってしまった。
「……あほくさ。……しょうもな。 ……なにやってんのや、俺。……アホちゃうか……」
 くっ、と唇を噛み締めてきびすを返す。グラウンドを真っ直ぐ突っ切り、裏門から外へ抜けた。尻ポケットに入った携帯が小さく振動してメールの着信を教えていたが、それを確かめる気にもならない。
「あー……カバン置いてきてもうた。金もあらへんな……。くそ。今日は厄日やで」
 ばりばり頭を掻きながら人通りの多い道を避けて堤防へ出る。川沿いの道は風も強かったが、おかげでうっすらかいた汗を心地よく冷やしてくれた。ドウ……と耳の傍を風が通り抜ける音を聞きながら、大きなため息をひとつ落とした。

『昭彦』

 ドキリと心臓が跳ねた。低く甘い声が聞こえたような気がして、慌てて周囲を見回す。けれど目に映るのは何も変わらぬ川岸の景色。優しい色合いの景色に溶け込めずに居る自分ひとりの影。

『昭彦……どうした、昭彦』

 高鳴る胸を押さえ込むように学生服の胸元を握り締める。
「なんでやねん……。なんでちんころの事なんか思い出すんや……。あんなうそつき知らんわ。みんなちんころが悪いんやんか!」
『昭彦……』
「うるさいわ!気安く呼ぶな!」
『愛しているよ』
「うそやー!」

 強い風の音にかき消されながら声を張り上げる。彼の部屋で過ごした数日。寒い夜に迎えに来させたこと、車のエンジン音までが思い出される。彼の冷たい肩。甘い煙草の匂いのするキスまでも……。
 堤防壁の隙間にうずくまって、小さく頭を抱える。風の音も聞こえないように身をちぢ込めて。あの日の事を思い出すと胸が痛くてたまらなかった。同じように彼のベッドで眠りに付いた夜。朝の光に目覚めれば……彼はそこに居なかった。彼だけではない。ベッド以外の全てのものが、彼と共に消えていた。自分が陵辱されたシーンを撮影したビデオテープと、かなりの額の札束だけが枕元においてあって……。
それから風邪をこじらせて入院していた数日。夜ごとの夢か幻か、彼の姿を垣間見る日々。コンビニに抜け出した日は、彼の腕の中で眠ったけれど……朝は病院のベッドで目覚めた。
「夢にまで……出てきよってからに。夢でも俺を置き去りにしてからに……。あのどアホ。今度逢うたら、必ず殺したんねんから」
 ぐす、と小さく鼻をすする。汗が冷えて肌寒いのもあったけれど、今はあの憎たらしい苦笑が酷く懐かしくて。
「殺す前に……美味いもんたらふく奢らせるんや。高級料理食うて、欲しいもんなんもかんも買わせて、それから殺したる。くそ……」
 携帯電話を握り締めて独り言を呟く。あれからまた携帯は買い換えた。彼からのメールも電話も、もう届くことは無いだろう。お気に入りのマスコットつきのストラップだけは相変わらずだったが。布で作られた薄汚れたクマのマスコットを指先で弄びながら、先ほど届いたCMメールを消去する。彼とやりとりしたメールは、もうとっくに消してしまった。それを後悔している自分に気付いて、慌ててかぶりを振る。
「どうだってええやん、あんな奴……。もうどうでもええんや。もう……どうだって……」
 
 言葉の内容とはうらはらに、次第に涙声に変わってゆく。見つめる携帯の画面がぼやりと滲んで。
「……阿呆……。どこいってもうたんや……。うそつきやん……。愛してるて言うてたやん……。腹いっぱいプリン食わせろ、ちんころが……っ……」
 ぽた、と学生服の袖に雫が落ちる。自分を強く抱き締める彼の腕が、何故かとても恋しくて。そう感じている自分のことも許せなくて。
「もう嫌や。みんな嫌いや。大嫌いや……。くそったれ」
 ぐすん、ともう一度鼻をならし、手の甲でぐいっと頬を拭う。いつまでも壁の隙間に居るわけには行かない。泣き腫れた目元を風に晒して冷ましながら立ち上がると、元来た道をまたゆっくりと、わざと時間をかけて戻ってゆく。

もしかしたら帰り道に大きな黒い車と出会いはしないかと、遠回りをしながら。

……………………………………………………
チャットで使っていたキャラネタです。
主人公、水澤昭彦、高校生。教科担任の『辻ちゃん』を気に入り、通学電車内で毎朝無邪気に痴漢行為に勤しむww 『辻ちゃんも本気で嫌なら逃げるやろ。逃げへんのやったらかまへんよな』という見事な論法にて彼を手篭めにしてしまうも、事後にてビンタ食らって逃げられる。
自業自得なのにふてくされた挙句、ヤクザのベンツに八つ当たりしたのが運のつき。
無理やり車に連れ込まれてアジトに監禁。陵辱された挙句ビデオに撮られる。
『大人しく言うことを聞けば、おまえの大事な『辻ちゃん』には手を出さないで居てやる』という確約つきで。
そのビデオの流出、および関係者への影響への恐れもあり、下っ端チンピラ共は性処理のおこぼれに預かろうとする下劣なやつもいる中で、シマを取り仕切っている支部長クラスのインテリヤクザに気にいられ、ほぼ愛玩動物状態で二ヶ月ほどを過ごす。
彼への呼び名は『ちんころヤクザ』。どれだけ教え込まれようと、絶対に彼の名は呼ばない。
最初は憎いだけの相手だったはずなのだが……。
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