11日は「ジミーとジョルジュ 心の欠片(かけら)を探して」、
14日は「味園ユニバース」、
15日は「フォックスキャッチャー」、
16日は「リトル・フォレスト 冬/春」を観に行きました。
「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」 ’13 (仏)
監督・脚本:アルノー・デプレシャン 原案:ジョルジュ・ドゥヴルー
共同脚本:ジュリー・ペール,ケント・ジョーンズ
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ 音楽:ハワード・ショア
m:ベニチオ・デル・トロ,マチュー・アマルリック
f :ジーナ・マッキー
『エスター・カーン』『クリスマス・ストーリー』のアルノー・デプレシャンの新作。
第二次大戦の戦場での後遺症と思われる症状を呈するアメリカ・インディアン
ジミー・ピカードと彼のカウンセリングに当たる文化人類学者
ジョルジュ・ドゥヴルーとのセッションが綴られる。
予告編では『白い恐怖』みたいな夢の映像が登場するから
てっきり患者ジミーの心の傷が明かされるところにドラマがあるのだと思っていたら
確かにジミーの治療が終了して物語が終わるとはいえ、
映画はジミーのPTSDの解明を語るのではなく
ジミーとジョルジュという特殊な背景を持つ男たちの絆が
静かに醸成されて行く過程を映しているのだった。
ネイティブ・アメリカンであるジミーは迫害の歴史を抱えていて
言語や信仰や風習といった文化を攫われてしまった“人種”である。
ニューヨークに暮らすフランス人ジョルジュは 実はハンガリー系ユダヤ人で
当然ヨーロッパのユダヤ人の惨禍を負っている。
どちらもデラシネである。
その彼らが響き合う…のだから どれだけ面白いドラマが生まれるのか…
と思うのだけれど、デプレシャンは
原作「夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録」そのまま
セッションの内容と過程を綴って行くばかりで、
二人の男が互いに感応し合う微細な瞬間を
マチュー・アマルリックとベニチオ・デル・トロの上等な芝居で見せ、
ドラマを語ろうとはしないのだった。
インディアンにしろユダヤ人にしろ二人の抱える背景には
とんでもない豊饒なドラマが潜んでいるだろうに、
全くそれらに触れない―という見事なほどの抑制を読んでいるような映画は、
そういう仕様だと解かっても 相当イライラされられた。
この二人の男たちのことを もっと知りたい…! と思ってしまう。
それくらい二人の俳優はジミーとジョルジュを魅力的に演じる。
けれどもデプレシャンは、観客の欲望すら抑制して
二人の男の間に生まれるささやかな交感を
“人と人とが本当に互いを気持ちよく受容する”稀有な物語にして、
決してそれ以上を語らないのだ。
よい映画である。
けれど非常にストレスの残る映画だった。
「味園ユニバース」 ’15
監督:山下敦弘 脚本:菅野友恵 撮影:高木風太 照明:小西章永
美術:岩本浩典,安宅紀史 録音:竹内久史 スタイリスト:伊賀大介
編集:佐藤崇 音楽:池永正二
m:渋谷すばる,川原克己,宇野祥平,松澤匠,野口貴史,康すおん,赤犬
f :二階堂ふみ,鈴木紗理奈,松岡依都美
山下敦弘の新作。
歌以外すべての記憶を失った男が若い女に拾われ
彼女のバンドに参加することになる…というお話。
記憶喪失にしても ライブシーンによる昇華にしても
随分ベタな設定だなぁ…とは思うのだけれど、
渋谷すばるで音楽映画を撮ろう―という企てはものの見事にハマって
まぁ なんて気持ちいい映画に仕上がっているんだろう!
といっても
渋谷すばるという俳優が「関ジャニ∞」のメンバーであることを知らなかったし
ということはアイドルなのか ?! とひっくり返った次第(笑)。
40になってもアイドルはアイドルなんだろうけど
渋谷すばるの30面はアイドルには見えなかったもので…。
ストーリー,音楽,渋谷すばるの歌唱力,それらがもたらす感動…は
もうそのまま、観たまま聴いたままなので
熱く語りたい人にお任せするとして、この映画は…
大坂の街がいい!!
てっきり撮影は近藤龍人かと思ったら違って高木風太。
この人は「シネマ☆インパクト」の短編数本と『恋の渦』を撮った人で
大阪芸大の後輩らしいから
山下敦弘の撮りたい大坂をよく解かっている人なのだろう。
渋谷すばるがボコられる何の変哲もない道路から
ヒロイン カスミの安普請の昭和家屋
油じみた町工場
豆腐屋
道路の両脇にそびえる工場のパイプ群
そしてもちろん
味園ユニバースビルの垢抜けないレトロさ…まで
絶対オシャレにならない
生活感ダダ漏れ―みたいな山下敦弘の望む画が
もう、気持ちよくて…ね。
つい先日「ドキュメント72時間」で味園ユニバースを知ったばかりで
あの何とも垢抜けないちょっと怖いような怪しい感じ…が
渋谷すばる演じるポチ男のイノセンスと胡散臭さを映して
「赤犬」のライブがハマりすぎ!!
実の姉から“死んでくれ”と言われるようなサイテーのクズだったポチ男が
歌う自分だけは肯定できることを証明するラストは
実にじつに感動的で、
二階堂ふみの“しょーもな”に涙してしまう。
過去の自分の悪人ぶりと向き合う―なんて
ハリソン・フォードの『心の旅』みたいなお話だよなぁ…
とか思ったりした(笑)。
大名作ではないけれど とても読みやすいので
人に薦めたくなるいい映画である。
(…にしても
二階堂ふみ作品の外れなさには驚いてしまうぞ!)
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