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2015年02月08日14:26

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「百円の恋」

「百円の恋」 ’14


監督:武正晴 脚本:足立伸 撮影:西村博光 照明:常谷良男
録音:古谷正志 美術:将多 衣装:宮本まさ江 編集:洲崎千恵子
音楽:海田庄吾 歌:クリープパイプ
m:新井浩文,宇野祥平,坂田聡,沖田裕樹,吉村界人,松浦慎一郎
  伊藤洋三郎,重松収
f :安藤サクラ,稲川実代子,早織,根岸季衣


第一回松田優作賞受賞脚本の映画化―とあるが、
山口の周南映画祭は映画化を前提としたオリジナル脚本を公募しているらしい。
その募集作品の中でグランプリを獲った脚本だが
受賞したからといって映画にしてくれるわけではないから
どういう経緯で製作に至ったのか知らないが、
『イン・ザ・ヒーロー』の武正晴がこれを撮った。
実家で自堕落な生活を送る斎藤一子32歳は出戻った姉に家を追い出され
アパートを借りて100円コンビニで働き始める。
仕事場の面倒な人間関係に倦む一子は近くのボクシングジムに興味を持ち
トレーニングに通うようになるが…というお話。
『もらとりあむタマ子』のタマ子のグータラ生活は愉快に描かれたけれど
一子のグータラ生活はしまりのない腰回りそのまま
一般の社会からこぼれ落ちた情けない状態―として描かれている。
それは彼女の周囲の人々も同じで
100円コンビニの店長も従業員も期限切れ弁当を貰いに来るおばちゃんも
同棲することになる40男のボクサー狩野祐二も一子の父親も
登場する人がみんな社会の底辺に吹き溜まってるみたいな人たちで、
この映画は彼らについての物語と言っていい。
生活態度を姉から罵られようと コンビニの上司から無理矢理処女(!)を奪われようと
自己評価が著しく低い一子は 茫洋と日常をやり過ごすだけなのだが、
ボクシングジムでトレーニングを始めて
それは何ともみっともない有様なのだけれど、
狩野の妙な優しさの前に大泣きした時と同様
ボクシングは一子の“自分”をさらけ出せる場で、
彼との同棲にわくわくし 彼に棄てられて呆然としても
トレーニングで改造されて行く肉体だけは彼女を裏切らない。
そうして32歳の年齢制限ギリギリでプロテストに合格した一子は
ストイックに“ボクシング”に挑んで行く。
望んでも却下され続けた試合についに出場が決まり その試合が
これがボクシングを描く(・・・・・・・・)映画であることを証すのだ。
明らかに格上の若い対戦相手に一子は完膚なきまでに叩きのめされるのだが、
試合前のいやが上にも精神が高揚し存在が研ぎ澄まされて行く感じから
相手のパンチの衝撃に敵の力量を認識し驚愕し
ボコボコにやられながらも 反撃しようとアタマでなく肉体が反応する様子、
ただ一度パンチが相手をまともに捉えた手応えがもたらす筋肉の歓喜
そしてボロボロの敗北まで…試合のリアルは息を呑む。
一子は狩野が負けた引退試合でそうしたように
勝者を抱擁して祝福する。
狩野の引退試合を観て以来ずっと これをやりたかったのだ。
会場前で待っていた狩野に誘(いざな)われてとぼとぼと歩く一子は
“勝ちたかった…!”と声を上げて泣くのだ。ここで映画は終わる。
ここにはおそらく
ボクシングというスポーツの持つ 曰く言い難い“何か”が摑まえられていて
その“何か”に触れ得る…という点が感動を保証している。
「あしたのジョー」が、「がんばれ元気」が、「はじめの一歩」が、
摑まえている“何か”がここにはあって
観客は激しく心を揺さぶられる。
そういう映画なのだ。
これはもう安藤サクラでなければ撮れなかった…と言っていいんじゃないか?
この天才女優がこの年齢でこの脚本に出会えたことは
天啓だと思うよ。大げさじゃなく。
新井浩文のダメ〜な感じもよくて
満足度、完成度ともに高い いい映画である。
佳作。
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