パリ経済学校のトマ・ピケティ教授の「21世紀の資本」と言う700ぺージもの大書が5940円で日本で13万部も売れたそうです。テレビに新聞に引っ張りだこで、ずぼらな僕はそんな熱心な読者の解説を読んで、まだまだ消化不良ですがちょっと書いてみます。
その前にカール・マルクスが書いた「資本論」が出来た頃は、ヨーロッパは「産業革命」の結果、「資本家」が綿織物などの大量生産でぼろ儲けをしながら、労働者を低賃金で雇い、極端な格差が広がり「ダダイズム」などと言う工場機械の破壊活動が頻発する時代でしたから、マルクスはこの「資産家」の取り分を排除して全部を「労働者」に分配すれば「格差のない平等社会が実現する」として、「共産社会」を提唱し、「資産階級=ブルジョワジー」の「不労所得=金利や家賃や配当など」を認めない社会を作る「労働者階級=プロレタリアート」の「働く人だけの社会」を実現すべく「プロレタリア革命」の必然性を説きました。
ところが、そうなると身銭を切って新しい技術開発をしたり、新製品が当たっても、その分け前は自分一人の物ではないので、誰もリスクを冒して努力する人がいなくなり「共産主義」は「理想倒れ」になりました。そこへ20世紀前半は「戦争の世紀」となり、資産家も持っていた財産が極端なインフレや爆撃のためにガタガタになり、格差は一遍に縮んでしまいました。戦後は裸一貫、まずは庶民の生活再建を優先して購買力をつけ、「勤倹貯蓄」を奨励して資金を作り「景気拡大」を勧め、「一億総中流」を実現することによって、日本も「格差の少ない社会」を実現しました。
ただし、日本の資本主義は独特なものでした。それは明治になって「農本主義社会」では、近代工業を支えるほどの「資産家」が育っていなかったために、政府は「官営事業」の民間払下げと言う形で「財閥育成」を旧豪商にゆだねてましたし、政府の要請を受けた財閥も「産業報国」を旗印に、先進国に追い付き追い越すための「使命感」に燃えて、国が育成した貴重な人材を使って欧米にキャッチアップし「終身雇用、年功序列」と言う「会社に忠誠を誓う社員」を会社の財産として、「投資してくれる資産家」を後回しにして、発展を遂げてきました。政府も最初は「傾斜生産方式」と言って、基幹産業である「金偏、糸偏」などに資金や資材を重点投資をしましたが、土台が出来たら「日本株式会社」と揶揄される「護送船団方式」で「経団連」と二人三脚で歩みました。
バブル崩壊後の世界では、景気低迷のために収益が上がらなくなり、経営者は労働者の賃金を削って自分たちの取り分を増やした。投資家たちも会社の規模が膨らみ、株価が右肩上がりの時は文句を言わなかったけれど、売り上げが下がると配当も下がるので、うるさくなった。結局、「政治献金」を積んで、政治家を買収して「法人税の引き上げ」や「非正規労働者」の法整備、「人材派遣業の解禁」「所得税の累進課税の緩和」など「格差拡大支援政策」を取り、勤労者の平均賃金が下がり続けました。
これをとらえて、ピケティ教授が唱えたのが、資本収益率r >経済成長率gと言う不等式です。ストレートに言えば、「ブルジョワの持つ資産が稼ぐ儲けの方が、勤労者の稼ぐサラリーより伸び率が高い」と言う意味です。その結果「格差は拡大する」。過去300年間のデータを調べたが、戦後の50年間を除いて「資産の稼ぎの方が賃金の伸びより大きかった」と言うのです。だから、ピケティ教授は「世界的に高額所得者への累進課税を強化すべきだ」と言う結論を唱えています。
先にご紹介したように、日本は独自の資本主義で「資産家≒政府(国家の富国強兵)」的なところが強かったために、上位1%の人が全体の所得の何%を占めるかと言う統計では、アメリカ17.4%、イギリス14.7%に対して、日本は9.5%なのだそうです。ピケティさんのデータではr(資本収益率)=5に対してg(経済成長率)1と言いますから、これでは「格差は拡大」するのは当然です。この伝で言えば「トリクルダウン=上位の大企業がもうかれば下位の中小企業も儲かる」と言う仮説は馬脚を現しています。
これは単に貧困層(国民の平均所得の半分以下の所得者)が16%(6人に一人)と言う問題にとどまらず、「少子化」→「労働人口減」→「移民の受け入れ」→「治安の悪化」に繋がり、日本の崩壊につながります。現に親の年収が1000万円以上の家庭では大学進学率は62.4%ですが、年収200万円では31.4%だそうですし、その後の就職先でも正規雇用と非正規雇用で収入に格差が付き、老後も有料老人ホームと介護難民に分かれます。
したがって、日本が高度成長時代に味わった「経済成長すれば格差は縮小する」と言う神話は過去のものとして、現実の流れがマルクス以前の極端な「所得格差の時代」に向かって奈落の底に転がりかけている状況をはっきりと認識して、小手先の「社会保障政策=所得の再分配」で済ますことなく、新しい産業を立ち上げる方向へ舵を切らなければ危ないのじゃないかと思います。ただし、日本のすべての企業や資産家が格差拡大に向かっているかと言えば、いまだに「産業報国の精神」に邁進している企業もたくさんあります。その典型がトヨタ自動車です。ここの社長さんは「納税は企業の責任だ」と仰っています。どんなに苦しくても納税できる会社でなくては企業の使命が果たせないのだそうです。
以上、素人の僕が生噛りした「ピケティ教授の21世紀の資本」のわかりにくい解説でした。
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