「トム･アット･ザ･ファーム」 ’13 (加･仏)
監督･編集･衣装：グザヴィエ･ドラン 原作：ミシェル･マルク･ブシャール
脚本：グザヴィエ･ドラン、ミシェル･マルク･ブシャール
ｍ：グザヴィエ･ドラン，ピエール･イヴ･カルディナル
ｆ ：リズ･ロウ，エヴリーヌ･ブロシュ
’13 ベネチア国際映画祭 国際批評家連盟賞
グザヴィエ･ドランの新作。
ミシェル･マルク･ブシャールの同名戯曲の映画化ということで
オリジナルでない上にサイコスリラーの体の作品なのだ。
サイコスリラーと言っても 元の舞台劇は
“支配と共依存”というテーマを台詞で綴る堅く賢いお話で、
ドランはアップを多用して
トム(ドラン自身が演じる)の不安・不信・怒り・焦慮…様々な気分を
不穏な画にしているのだ。
交通事故で死んだ恋人ギヨームの葬儀のために
彼の実家である田舎の農場を訪れたトムが体験するのは、
独善的で暴力的で常に不穏なギヨームの兄フランシスが統べる農場の日常が示すように
この土地の閉塞性である。
フランシスの偏執的な思考と理不尽な暴力に慄然としながら
彼の中に恋人ギヨームに連なる匂いを感じて
トムがフランシスの支配を受容して行くのが不気味なのだ。
無思考になりフランシスの支配に陶然となるトムの変容は
人間の属性の脆弱な部分を明らかにし、
彼がゲイであることが
SEXを一層隠微なものに感じさせる。
ホモセクシュアルへのフランシスの侮蔑があからさまに激しいからである。
映画全体が醸す不穏な空気を読みながら
シモーヌ･シニョレの『燃えつきた納屋』を思い出したりした。
田舎の村の 排他的で保守的で不寛容なさまが
都会人のリベラルな思考や自由な嗜好がいかに脆いものか思い知らせる…
そういう居心地の悪さが似ていたから。
モントリオールからもう一人の訪問者が来たことで
トムの精神的呪縛は解かれるのだが、
フランシスの過去が暴かれ トムが逃走する件りはサスペンスフルで
ほとんどエンタメである。
フランシスの暴力の残滓が幽霊のように立ち現れるガソリンスタンドのシーンに
震えあがってしまう。
そうしてトムは
光と音と人の喧騒の街、モントリオールの懐に戻って行くのだが、
ドランはそれを
“めでたしめでたし”ではなく どこか寂しい安寧のように描いていて、
“理解されたい欲望”と“それを望むことの不毛”が鬩ぎ合うこの人の作品は
どこまでも孤独だなぁ…と思うのだった。
佳作。
「３６５日のシンプルライフ」 ’13 (ﾌｨﾝﾗﾝﾄﾞ)
監督･脚本･主演：ペトリ･ルーッカイネン 音楽：ティモ･ラッシー
カウリスマキ兄弟以外のフィンランド映画を初めて観た(と思う)。
失恋して心が空っぽになったのに モノで溢れた快適すぎる部屋にいることに倦み
�＾戝兇垢戮討離皀里鯀匕砲僕造院�
�■影�に１個だけ倉庫から持って来て良い―
��このルールで１年間暮らす―
�ぃ映�間何も買わない―
というルールを監督が自らに課し、それを記録したドキュメンタリー。
映画用に企画したわけではなくて
こういうバカな試みを記録してみるのも面白いかな…くらいの気持ちだったようだ。
元々映像の仕事をしている人だったので。
ところがこれが面白い！
素っ裸で倉庫まで走ってコートを手にする１日目から
靴→毛布→ジーンズ…と１個づつモノを手に入れて行く映像は、
単純な記録ではなく 明らかに演出されているけれども
屋外は雪の寒冷なヘルシンキで 何をどの順番で選ぶべきか…は重要で、
ペトリ･ルーッカイネン監督と共に
観客もまた我が身に置き換えてモノ選びを考えるのだもの。
家族に呆れられ 友達にバカにされ パンツもケータイもなしで仕事しながら
７日目の持ち帰り品「マットレス」に至福を感じる彼を眺めると
その幸福感を共有してしまう(笑)。
それくらい“モノと私”についてよく考えてみよう…！と思うのだ。
２６歳 独身の監督がたどり着くのは
生活するのに本当に必要なのは１００個くらいのモノで
次の１００個は生活を楽しむためのモノである―という結論なのだが、
モノは人を幸福にはしない―
所有には責任が伴う―
人と関わるところに幸福は生起する―等々
自身とモノとの関係性を思考し
距離や意味を発見するところに映画の妙味はあって、
それはあまりに当たり前で 気持ちよく腑に落ちる事項なのだけれど
だからこそ静かにささやかに感動できたりする。
モノたちとこのように真摯に向き合うということは
自分の生活の構成要素について深く思考することになるのだ。
映画を観た人はそれを受け取って自分の生活を顧みるに違いない。
そんな力のある映画なんじゃないか…と思う。
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