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2014年11月09日17:40

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皇国の守護者/佐藤大輔

泥臭い!きな臭い!陰惨!地獄!

それなのに何故目が離せないのか。
むしろ惹かれずにはいられないのか。
すべては新城直衛、この男の放つ魔力とも呼ぶべき強力な魅力に尽きる。
一度読み始めるとどれほど厭でも読み手は新城直衛の戦争に引きずり込まれるのである。
どんな陰惨な地獄ショーが待っていようと。血も涙もない徹頭徹尾ただの戦争が口を開けていようと。

戦争!戦争!戦争!
よろしい、ならばry



要約:新城直衛に惚れない女は女じゃないね!
 新城直衛に惚れない男も男じゃないね!


撤退戦という言葉をご存知でしょうか。
攻略戦、防衛戦、掃討戦、戦いと名のつくものは数あれど、もっとも難しくそしてもっとも悲惨な戦いがそれであるとされています。
撤退するための戦い。撤退を支援するための戦い。 またの名を後衛戦闘。それが撤退戦。
つまりスタート地点からすでにまず負けている。
しかも普通の負け方じゃないんですね。撤退しなければならないほどの完膚なき敗北。
その撤退しようとせん部隊のために、最後まで戦場に残って戦う。
すでに負けている中、さらに殲滅戦をかけてこようとする敵部隊の猛攻にすり潰されながら戦うという、それは激しくも悲惨な戦い。
しんがりと呼ばれるびんぼうクジもいいとこの泥臭い悲愴な「撤退戦」というものに、私は興味が惹かれてやまなかったわけです。
負けてからの戦いというものに。
多大なるマイナスからはじまって、大成功してもまだマイナスという戦いとはどんなものだろうと。


社会に出て大人になって、勝ち方よりも負け方のほうに興味がわくようになりました。
人生、負けることの方が圧倒的に多いわけじゃないですか。しかも負けたらそれで終わりじゃない。負けてからの方が圧倒的に長い。
博打なんかでも、博打強いというのは勝ち強さじゃないんだそうです。どん底での粘り強さ、負け強さが博打のつよさを決めると。

それでもってこれは『皇国の守護者』とは関係がないのですけど、人間の才能のかたちとはほんとうにふしぎなもので、負け戦で真価を発揮する人間っていうのがまたいるんですよね。
勝ち戦で大金星をあげられる花形プレイヤーが、負け戦でも活躍できるかというとそうじゃない。負け戦は負け強い人間にしか出来ないと。

私は福本信行の『カイジ』の主人公伊藤カイジさんがだいすきなんですが、このカイジさんはまさしく才能を「撤退戦」に極ステ振りしたさいこうのキャラクターなんです。
負けてからの戦いに最高に強い。
普通なら誰しもが心砕けて立ち向かうはおろか立ち上がれもしないような戦いにのみ強い。
ただし平常時にパチンコを打つとゴミ並みにあたま悪い。
どうよこのアンバランス具合?!

という風に人間は欠損に恋をするもので、、、

新城直衛もまた、まさしくその人格の欠損部分に恋焦がれてやまないキャラクターなわけです。(これが本題)

短足。矮躯。正直ブサ。
貴族さまのおこぼれで育ったためか顔にいやしさと性根のひねくれ具合が隠れていない。
臆病。超小心。子どもの頃は夜風が吹く音におびえて泣いた。
人付き合い下手。あまりにひねくれていて分かりにくいので友だちはすくなく敵は多いが普通に性格が悪いためでもある。
好き好んで近づく女もいないが性交する際女の首をしめないと達しない最悪な性癖もあって恋人はいない。
彼が心から信頼しているのは軍のバトルビーストでもある剣牙虎・千早のみである。

平時においてはぱっと見冴えないコンプレックスにまみれた小男だが、ひとたび戦争がはじまると冷えた金属のような冷酷強固な意思と魔神のような闘争心で兵の狂気に火をつける有能極まりない指揮官に変貌し、どんな戦場も自分の庭のように渡り歩いてしまう。
どんな卑劣にも躊躇なく手を染める高貴さからはもっとも縁遠い男なのに、どんな地獄に首までつかってもたったひとつの「善きもの」を失わない誰より高潔な男である。

要するに非常に矛盾に満ちた悩ましいキャラなのですね。

その行動が苛烈であればあるほどその思考が冷酷非情であればあるほど、それでもなお残る人間味の部分がわたしの心をはげしくゆさぶる!!


もうねぇ、、、六芒郭で冴香をかばうところとか、、、、

もうほんとおまえってそういうやつよな、、って、、、、 (ときめき中)

あれですわ。
最良のパートナー(でも相棒でも伴侶でもなんでも)って、いっしょに楽園に行きたいっていうより、こいつとなら地獄でもいっしょに笑える、みたいな人のことを言うのだろうなぁ、、、と新城さんを見ていておもいました。

あと『皇国の守護者』の良いのは、本当にリアルな戦争のしかたというか、
〜きみにでもできる!戦争の手引き〜のようなところというか、 ああ、2世紀前くらいの時代の戦争ってこういう感じか、、、と深くなっとくできるところがすばらしかったです。もっと複雑怪奇な不明要素に包まれた仕組みなのかと思いきや、 実は単純な原理が支配するなるべくしてそうなるチェスにも似た世界というか。ただ失うものがお金と人命なだけのチェスというか。
チェスが貴族(軍人)のゲームだったということがよく分かります。
あと私がいまいちよく分かっていなかった、兵・下士官・将校の明確な役割の区別がこれを読むことではっきりとついたのも大きい。
今まで兵と下士官がごっちゃになってたんだな、、!なるほど。。。

兎に角も北領撤退戦がすごすぎた。

読み終わったあとしばらくも、自分もまたあの北領の戦場に実際にいたかのような友軍が残らず逃げ帰るのに自分たちは冬の北領に残されあてどもない戦いに身を投じなければならない悲しみとか、人間が生きることを許されない極寒の世界で歩き続けなければならない果てしない疲労とか、いつ死ぬかもわからない恐怖に囚われんがために心を摩耗させていく感じとか、敵の行軍が潜伏地に向かってくる足音によって昂ぶってくる恐怖と興奮とアドレナリンマッハの狂気に頭がぬりつぶされていく感じとか、
からの燃え尽き症候群とか600人いて15人くらいしか生き残らなかったあの壮絶な撤退戦の残滓がどこか体に残ってる感じはんぱない。


ひさびさに前のめりにのめりこむような読書体験でした。
体力がいるので万全の態勢でいっき読み推奨。
伊藤悠のコミカライズ版の出来栄えも信じられないくらいクオリティ高くて、そちらもおすすめ。難点は手に入りづらいことですが。。
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