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2014年06月24日18:13

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カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生

もうタイトルで即買いっていうか…

日本語の奥深さ、ですよね。
想像力をかきたてられる。一発で覚えられる。強烈に心に残る。
わたしキャッチコピーがすきで、それは短い文章の中にどこまで本質を織り込めるか、というこの限られた狭い国土で生まれ育った日本人なら本能的に追求してしまう美学だとおもうんです。
俳句とかね。17文字という限定世界で生まれる無限宇宙じゃないですか。
そこでいくとこれなんかもう現代の松尾芭蕉級。

『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』




    /\___/ヽ    ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<   ::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ


どうです、この読む前から猛烈な勢いで漂ってくる人生うまくいってない感。
せつなすぎてもうわたしは、とても正気では読めなかったですよ!

6、7年くらい前でしょうか…田舎の地元のSATYにテナント入りしたペカペカのサブカル系おしゃれスポット Village Vanguard …
おしゃれ自転車とかおしゃれ冷蔵庫とかゴムでできたきもい虫とか売ってるすてきな本屋さん…(くっさいお香のにおいがする)
「あ、ヴィレバン寄りたい〜」と友だちにドヤ顔でふかし、「ここむっちゃしょっちゅう来てるわww」と常連ぶるだけでなんだか自己価値があがったようなそんな錯覚に耽溺できるそれはすてきな本屋さん…
(友だちはお香くさくて頭が痛くなりすぐに退店した)
そんなだいすきなヴィレバンでかかっていたおしゃれBGM…
それがまさしくJ-POPのボサノヴァ風カバーソング集「Lovers POP」でした。
(買いました。そのあとおにいちゃんが聞いてこれイイやん!てVol.2買ってました。)

甘い…なんていうんですかね、軽やかで可愛らしい女性ボーカルの声を聞きながらわたしは思ったものです…

「こういうの歌ってもうかるんやろうか。。」


表題作『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』の女のカーミィが35才にしてくすぶっているのはそのへんのせいじゃないのかなぁと読んでいて思いました。

歌手になる!でっかい夢を抱いて上京したカーミィちゃん。
頭のてっぺんからつま先までコンテンポラリーな60年代風ファッションに身を包み、週末にはおしゃれなカフェバーで時々ライブをしたり、自分と同じ「夢」を追う仲間と語る日々。
顔は可愛いカーミィなのでラーメン屋でバイトしてるカス男が自分に惚れていても歯牙にもかけないよ☆だってメリットないんだもん。
でもバンドのギター男は正直もう好きでもなんでもないけどカーミィのために曲書いてくれるかもしれないからクズで早漏でも生でやらせちゃうよ、仕方ないよね。
コールセンターの職場の自分より格下認定していた女がエイベックスのオーディションの最終選考に残ったことを知ってこれまでにない焦りを覚えたカーミィは取るものもとりあえず知り合った音楽プロデューサー(スカトロ趣味あり)に即枕営業。
カーミィーはプライドをぼろぼろにしながらもへんたいに耐え、なんとか「J-POPのボサノヴァカバーソング1曲」の仕事をもらいます。
たとえ体臭にしょんべん臭が混じりだそうと自分の名前がクレジットされたCDが出るならかまわない!
今はカバーソング集の1参加アーティストでもこれを契機にいずれは中田ヤスタカにプロデュースされて音楽雑誌には2万字インタビューが掲載されて、オリジナル曲はCM音楽に起用されて大ヒット、いくつものおしゃれ雑誌に自分の連載コラムを持つようになり、ゆくゆくは「職業:カーミィー」みたいな?きゃは☆
カーミィーの妄想は留まるところを知らない。

有名になりたい。そのためなら手段は選ばない。

でもなんか…さいきん生理が…あれ…?ぜんぜん飲んでないのに吐き…気…?



読み終わって、いや読んでいる最中も吹きだす冷や汗、声にでてしまう「うわあぁ…」。すべってるピン芸人のステージショーを見ているようないたたまれなさ。「もういい!もどれピカチュウ!」とモンスターボールをぶつけたくなる気持ち。わたしがセコンドならバスタオルもって後ろからカーミィ羽交い絞めしてましたよ!

でもなんかほんと、身につまされる話でもありましたよね、、、。
そこでカーミィーの犬死をこれ以上無駄にしないためにも、ここで「ならカーミィはどうすればよかったのか?」を考えて、カーミィの生き方から学んでいきたいと思います。

カーミィが35過ぎても痛い女なのは「いい年して夢を捨てきれない」せいでもなく「ピチカートファイブにあこがれて60年代風ファッション」しているせいでもなく、「自分を客観視できていない」ためなんですね。
理想の自分の姿が大きいのも別に悪いわけじゃなくて、“理想の自分の姿”と“現実の自分の姿”がどれだけかけ離れているか分かっていない、その分析力のなさが駄目な原因。
シビアで冷静な審美眼が必要だったんだと思う。
上京してすぐ、19とか20の頃に自分が「うた歌うひと」として何点で、それが35点だとしたら、じゃあ35点でもお金をもらうならどういう所で歌えばいいだろう、とそういう下請仕事を探しに行く貪欲な姿勢が欠けていた。
自分の点数を分かっていなかった。
自意識が過剰すぎることよりも、ピルを飲んでいなかったよりもなによりも、これこそがいちばんの敗因だったんじゃないかなぁ、と、、、

たとえばサッカー選手になれなくてもすごい審判になれたらFIFAワールドカップに出ることは出来るわけじゃないですか。
有名アーティストになれなくてもすごいラジオDJになれたら色んなアーティストと一緒に仕事することは出来るじゃないですか。
そういう、自分の勝負分野、自分の商売を見つけていけばカーミィもなんとかなったんじゃないかと、、。。

やっぱねぇ、、、35で自分のこと「カーミィ」はあかんよな。。。


でもってこれ、漫画自体は「サブカル系こじらせ女のなれの果て」っていうていで、だからこその痛さみたいなのを描いてますけど、サブカル系だけじゃなくてもうあらゆる業界の色んな世界のどこででもある話だと読んでいて思いました。

それこそもう「自分の点数を分かっていない痛い政治家」だとか、「痛い相撲取り」とか、「痛いOL」とか、「痛いママ」とか。内容が違うだけで、どこででもある普遍的な話だと思う。
要するに客観性と自己分析能力不足の周りの見えていない奴は痛いしこける、と。
カーミィを、「ダウンタウン以外の芸人を基本認めていないお笑いマニア」の男を見て学べることを大きい。

中学生の落書きみたいな下手な絵の漫画でしたけど、だんだん描き慣れてきてちょっとうまくなっていくとこもよかったです。
あと「バンプオブチキンの歌詞と空の写真ばかりアップしているブロガー」男の吸ってるタバコがアメリカンスピリットとか、そういう絶妙な小物の配置もよかった。


『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』/渋谷直角

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