3月18日
どんよりとした今にも雨が降り出しそうな中、山道を歩き出す。
今日は籠の集落から高野の集落跡へ歩く。
高野にはもう誰も住んでいない。
かつては小学生も通った山の中の生活道はシダに覆われて、わかりづらくなっていたそうだ。
それを前日H君が一日がかりで刈ってくれていた。
それでも、道をふさぐ木の枝や草をKさんは鎌や鉈で切り落としていく。
「当時は小学1年生の子も歩いたんですよ。片道1時間半くらいかかったでしょうね。」
案内してくれるKさんが話す。70代後半の方だ。
小雨が降り出した。
「雨の時はどうしたんですか?」
「あのころはカッパなんてなかったからね。蓑を着たもんだよ。唐笠もさしたかなあ。」
「テレビもない頃だし、天気予報なんてなかった。空を見たり、風の向きで天気を読んだんだ。毎日、親が空を見て天気を読んだんだ。今の天気予報より正確だったよ。それを聞いて育ったからね、僕も今でも天気予報より、空を見て天気を判断するんだ。」
2時間以上かかって高野の集落に着いた。
今は植林されて山になってしまった中に廃墟がある。
木の建物は朽ちてしまったが、五右衛門風呂の釜や、鍋、電化製品などが残っている。
その中でみんなの目を引いたのは、小さな人形だ。
キューピー人形の南国版のようだ。
その小さな人形は今までどんな想いでここに一人でいたんだろう。
雨の中の廃墟。
もし、ここに一人で佇んでいたら、きっと子供たちの遊ぶ声が聞こえてくるに違いない。
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