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2012年03月24日00:52

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三題噺「ホッチキス、遊園地、ラムしゃぶ」

また、「文学少女」シリーズからお題をもらって書きました。
「ホッチキス、遊園地、ラムしゃぶ」で考えてて、今回はなかなかアイデアでないし、さあもう寝ようか、と思ったら
いきなりアイデア出てきて、眠いのに書かずにいられなくなってしまいました。
なんか意地悪されてるみたい。

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三題噺「ホッチキス、遊園地、ラムしゃぶ」

そんなに広くもない部室で試験勉強をしていたら、ガラリと戸があいて女子の先輩が入ってきた。
「あれ、今日はお前一人か」
一瞬目があって軽く会釈したが、胸が飛び出さんばかりに高鳴って、思わず目をそらしてしまう。
先輩も試験勉強しに来たのだろうか。試験期間なので原則的には部活は休みだが、僕のように教科書や参考書を持ち込んで試験勉強しに来るものが時々いるのだ。昨日も何人か来ていたが、今日は僕しかいなかった。
何かゴソゴソしている気配がする。何をしているのだろう。でも何をしているか確認する勇気はない。それでなくても先輩の存在を意識して顔が赤くなっていくのが止められないというのに、直に見て万が一にも目が合ったら、それこそどうしたらいいかわからない。わからなくなってしまう。
教科書の文句なんかもう、全然頭に入らなくなってしまった。このままずっと二人っきりでいられたら、今日はもうそれでもいいかも、とか思ってしまう。ずっと誰も入ってこなければいい。
あ、でも、そういえばこれって――――もしかしてこれって、コクるチャンスじゃないか?
先輩の周りには大抵いつも、後輩とか友達とかの女子がいて、なかなか話しかけるようなチャンスもない。こんなチャンスは滅多にないんだ。でも……
普段会話もしないのに、いきなりコクったりして、これってダイジョウブなの? 脈があるとかないとか以前のような気もするけど。しかも試験期間中だし! 成功率ちょー低いっぽいし!
いや、それでも、何もしないで後悔するより、やって後悔するんだ。てか後悔するの決定なの?!>自分
っと、いけないいけない、自分に突っ込んでる場合じゃない。先輩にコクるんだ。コクるんだコクるんだコクるんだ。
僕がそうやって葛藤している間にも、何かゴソゴソ作業していた先輩は、カチャンカチャンとホッチキスをし始めた。
資料作りでも始めたのだろうか? こんな試験期間中に、いったいなんの資料作りだろう。いやそんな事はどうでもいい。それよりも今は、どうやって話を切り出すかだ。
しかしいざコクろうと決めると、緊張の度合いが格段に跳ね上がった。目は教科書の表面を滑空しつづけ、汗が額や脇の下ににじみ出す。どう言って切り出したらいいか全然思い浮かばないのに時間がたつにつれてキリキリと切羽詰まった空気になっていく。
カチャン、カチャンッ、カチャン、カチャンッ
そうだ。資料作り手伝いましょうか、みたいな話から話しかけたらどうだろう。
妙案に思えた。
でもそれすら切り出す勇気がおきないのだ。頭の中では僕が先輩に「手伝いましょうか?」と話しかける姿が何度もリプレイされ続けているというに。
僕はもう、深夜番組のバンジージャンプの企画で前に一歩踏み出せないお笑い芸人を笑う事が出来ないっっ!
そこへ、再びガラリと戸が開いた。
「ちーっす」
同じ部の、僕とは違うクラスだが僕と同じ一年生の女子だった。
「なにやってるんスかー」
「見りゃ分かるだろ、ホッチキスだよ」
「あー、またストレス発散っスか。好きっスねー、ホッチキス」
はっ? ストレス発散?! 資料作りとかじゃないのかよっ!
顔も上げずに心の中で突っ込む。
「それがこの間、家族でラムしゃぶ食べに行ったんだけどさあ、それがオマエ、マッパネぇったら」
「はぁ、ラムしゃぶっスか。ラムしゃぶはうまいっスね」
「バカ、うまいどころじゃねえだろうが。マッパネぇだろーがよ。それでさあ、ラムしゃぶの事が忘れられなくてさあ」
「それだったら部のみんなで食べに行くってのはどうっスかね、ラムしゃぶ。そんで帰りに遊園地に寄りましょうよ」
「バカヤロウ、それじゃ順序が逆だろ。遊園地の帰りにラムしゃぶだろ、フツー。何時に店に入るつもりだ、そんな朝早くからラムしゃぶ出す店があるかよ」
「いやあたしはどっちでもいいんスけど」
「てゆーか、おいこら、そこ」
不意に先輩の声がこっちに向かってきて、僕は思わず顔を上げていた。
「オマエ、人の話に聞き耳たててんじゃねえよ、さっきから」
聞き耳たててたの、バレてた!
カアっと頭に血がのぼる。
「コクるんだったらさっさとコクって、どっか行けよオマエ。キモいんだよ」
しかもコクろうとしていた事までバレてる!
突発的に声を失なったみたいになって、言葉が出なかった。もとより、何を言っていいかもわからない。
もう、コクるとか、ムリだ。
僕は目を合わせないように顔をうつむかせたまま軽く会釈し、逃げ出すように黙って出て行こうとした。というか、もう、その場を逃げ出す事しか考えられなくなっていた。
その僕を、先輩の声が引き止める。
「おい、ちょっと待てよ。コクっていかなくていいのか?」
足が止まった。こんな状況で、コクるなんて、ムリ。でも、そうか? むしろ、チャンスを与えてくれたんじゃないか?
激しく逡巡する。
もしかして、こんなチャンスを与えてくれたって事は、ここで勇気出してコクったらオッケーしてくれるって事じゃないか?
僕はもう、自害する勢いだった。
「あの、好き、です」
「ああ、そーみたいだな。それで?」
「その、つ、つきあって、ください」
「うん、ムリ」
「先輩、マッパネぇっす」と女子が感嘆の声を上げる。
「ったりめぇだろ。そこらへんのチョロい女と一緒にすんなっての。相手から言ってもらわないとコクる事すら出来ないようなヘタレが、あたしの相手つとまるわけねーし。でもまあ、コクれて良かったじゃないの。なあ?」
僕は泣きそうな気持ちで身体をひるがして、出て行こうとした。いや、泣きそうというか、もう死にそうだ。
その後ろから、先輩の声が追いかけてくる。
「まあ、男を磨いてまたいつでも挑戦してこいよ」
僕はヤケクソになって振り返り、半ベソ気味に震える声で言った。
「じゃあ、今度、ラムしゃぶおごらせてください」
「よし」と先輩はスカートの上から膝をポンと叩き「オマエ、今度の日曜日、デートな」
「先輩、パネぇくらいチョロいっすね」

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