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2012年03月21日22:45

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三題噺「菜の花、うんこ、クレープ」

今度の三題噺のお題も奥さんです。
それと今回は、いつものドタバタじゃなくて、最近ハヤリの日常系みたいな、ちょっとホンワカしたのが作りたいな、と思って、チャレンジしてみました。
ラノベで鍛えた我がラブコメ力を思い知れ!
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三題噺「菜の花、うんこ、クレープ」

彼女が出来てからはほぼ毎日、学校帰りは彼女と連れ立って駅前商店街をうろつき、夕暮れ時には彼女を家に送って帰るのが日課になっていた。フトコロに余裕がある時は買い食いしながら、彼女の家に至る菜の花畑の沿道を二人して歩く。
その日もクレープを買って食べながら、薄桃色に染まる空の下、菜の花がさわさわと揺れる中を二人して歩いていた。と言っても彼女の方はとっくの昔に食べ終わってて、まだ食べているのは俺だけだった。
不意に彼女が立ち止まった。具合悪そうに腹を押さえている。
そして絞りだすような声で言った。
「……ウンコ」
マジかよ
と思ったけど、顔には出さないようにつとめて
「……あともうちょっとだけど、ムリか?」
「ムリっぽい。てかもう、そんな、歩けそうに、ない」
彼女が悲しげに顔をゆがめて上目遣いに俺を見る。
俺は慌てて周囲を見回し、菜の花の生い茂る畑の中を指差した。
「あそこまで歩けないか?」
俺がそう言うと、彼女はより一層悲壮な表情になって首を振った。
「ムリ、ムリだから、野グソはムリ」
「でも家までもたないんだろ?」
「そ、そうだけど、野グソは、マジ、ムリだから」
「俺が見張っとくし、菜の花が茂ってるからしゃがんだら何してるのか絶対わからないって。な?」
肘をもって連れていく。彼女は最初のうち弱く尻込みして抵抗したが、切羽詰まっている以上そんなには頑張れない。
俺はザクザク菜の花畑に踏み込んで行きながら、食いかけのクレープをムリヤリ口の中に突っ込み、もしゃもしゃ強引に咀嚼した。
「あた、あたしが苦しんでんのに、なに、食ってんのよ」
「もぐぐもぐぐ」
口の中クレープでいっぱいでうまく喋れない。それに
説明するより実際に行動で示した方が早いだろ。
クレープを包んでいた紙をひろげて、ひと際背の高い菜の花に囲まれた一画にそれをしいた。指でそれを指し示す。
「なに? ここでしろっての?」
「むぐむぐ」
うんうんとうなづいて見せる。それから、その前に背中を向けて立って、彼女がよそから見えないように隠した。
彼女はしばらく躊躇したが、
「見ないでよ」
というと、渋々といった様子で俺が用意した即席便器に腰を降ろした。
「み、耳ふさいで」
言われた通りに耳もふさぐ。
黙って口の中のものをむしゃむしゃしていると、しばらくして、ほのかに匂いが漂ってきた。
あ、そうだ、紙。
ポケット・ティッシュを出す為に耳から手を離す。街頭で配っていたのをポケットに入れっぱなしにしていたものだ。そんな上等なものじゃない。
「ちょっと!」
途端に彼女が背後で抗議の声を上げた。
俺は口の中のクレープの残骸をやっとの思いで飲み込むと
「もう終わりだろ?別にいいじゃん。それより紙、いるんじゃないの」
「……いるけど」
見ないように顔を背けながら背後に手をやって、ポケット・ティッシュを渡すと彼女は呟くようにそう言って受け取った。
カサカサと紙の音をたてて始末する気配がして、それから「ありがと、もういいよ」と言う、妙にすっきりした彼女の声がした。
振り返った。
「や、ちょっと待って! 振り返るのはダメ! NG!」
顔を真っ赤にして必死の形相で手を振り上げ、俺が彼女のウンコを見るのを阻止しようとする。
「いや、NGっつったってな、片付けないとダメだろ、これ」
俺はポケットに突っ込んでいたビニール袋を出した。クレープを買った時、入れていたビニール袋だ。彼女が手を振ってはばむのを避けつつ、そのビニール袋を手袋みたいにして手にはめる。
「わ、何するつもり。いや、マジありえないっ」
悲鳴混じりに文句を言ってくるのを聞き流して黙々と作業を続ける。てか、俺だって臭ぇんだ。せめて黙っててくれないかな。
「なにそれ? アンタそれ持って帰るつもり? うわっやだ、彼女のウンチお持ち帰りとか、マジ引くんですけど」
俺は無事ウンコをビニール袋におさめると、はあ、とため息をついて
「オマエがこんな所でいきなりしたいとかゆーからだろ?」
「だって、仕方ないじゃん。てか、え? ちょっと、マジで持って帰んの?」
俺がブツの入ったビニール袋を下げて歩き出すと、彼女は本気で驚いた声を上げた。
「当たり前だろ、犬のウンチだって飼い主が始末しないといけないのに、人間のなんか余計にだろ」
「か、飼い主って、やだアンタなにキモいこと言ってんの」
パッと顔が赤くなったかと思ったら、急にへらっと笑ってそんな事を言う。
「なに言ってんのはこっちのセリフだ、バカ」
その後しばらく、俺の彼女は、学校帰りにグレープを買い食いしては、菜の花畑でウンコをもよおすようになった。それで俺の方はというと、クレープを見るとウンコを連想してしまうようになってしまったのだった。

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