mixiユーザー(id:1883219)

2011年09月12日02:35

115 view

勝手に小説:第2話『志願者』 第三章:糸と糸の接点.2

第三章.1
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1765786484&owner_id=1883219

             クローバー

右京の言っていたとおり、確かにこの街道沿いには倉庫や貸しコンテナが多く並んでいた。

地図に小さく点をされた場所の電話番号は『オート』と名のつくように、とりあえず錆びたコンテナは置いてあるものの、いわゆる廃車場であった。林のように落葉樹の茂る先には赤坂の供述どおり、川が流れている。
捜査二課がこれを押収しなかった理由はここにあるのだろう。

『典型的な初動捜査のミスじゃないか』

そう思いながら、尊は小さく舌打ちをした。
その時、車の山の向こうから脅しじみた声が上がる。

男「何だお前ら!こんな所に置いといたら廃車にするぞ!」

廃車にするとは穏やかではない。若い女を連れたスポーツカー乗りと言うことで、向こうも最高の脅し文句と踏んでいるのだろう。
まあ、一般人だったならこれで効果覿面だろうな。と、尊は逆に手応えを感じていた。

こう言う場所は、普通は死体の隠し場所にはもってこいのイメージがあるが、実は盗難品などを隠すのにもちょうど良い。
脅しをかけると言うことは、イコールやましい事をしていると自ら公言しているようなものだ。

尊「あの、すみませんが人を探しているんですが」

男「人?こんなところに人がいるとしたら、ホトケさんか何かだろ」

尊「ホトケって。あれ?もしかして遺体なんかも預かった事あるんですか?」

案の定、男は忌々しそうに尊に返してくるが、その言葉に、男は更にむっとして尊を睨みつける。

男「あんたら、冗談も分からないようだな。ここには生きた人間は俺しかいねぇって事だろ。
用が無いならさっさと帰んな」

尊「ですから、人を探しに来ただけですよ」

そう少し複雑な表情を向けながら、尊は内ポケットから警察手帳を取り出し提示する。横にいた亜弥加もそれに続く。

男「警察?警察が何でこんなところに」

尊「あの、五嶋暁美と言う、40歳くらいの女性を探しているんですが、ここってコンテナとかって貸し出してます?あ!もしかして車のトランクを貸し出していたりして」

尊の言葉に、男は逆に薄ら寒いような視線を送っている。
やはり貸し出しているのは車のトランクか。とすると、時には本当に死体を隠したりする事もあったのだろうか?
『ん?!』
そう考えた時、さっと尊の中に一瞬悪寒が走った。

男「トランクとは悪い冗談だな。つまり、ここ最近うちに来た女はいないか?って事だろ?」

そう言うと、男は敷地の奥にある小屋へと入っていく。
男は緒川と名乗った。
話から察するに、この男が営んでいるのは表向きは廃車工場のようだが、小屋の中には古い解体業の許可書とともに、まだ新しい貸倉庫業と古物商の許可書が置かれている。
どうやら最近は廃品と言うかたちでジャンク屋としても営んでいるようだ。
そして男は棚からファイルを取り出し、ペラペラとめくる。

緒川「五嶋暁美さんじゃないけど、確かに一週間くらい前に女性がここでコンテナを借りてるね」

尊「それ、見せてもらえませんか?偽名を使っている可能性もあって、一刻も早く見つける必要があるんです」

緒川「ダメダメ、あんた令状無いでしょ。個人情報はむやみに提示するなって言ってるのあんたら警察じゃないの。それに、何でそんなに急いでこの人を探してるの?」

尊「ある事件に巻き込まれている可能性が高いんです。だったら、どのコンテナを借りたかの教えてもらえますか?それくらいなら良いでしょう。今いなくても、ここに来る可能性は高いんですし」

緒川「事件?仕方ないね」

『ああ、なんかまずいな』
そのまずさと言うのが何なのか彼自身まだ分からなかったが、状況はこの緒川の方に向いている。
そしてコンテナと言うよりも一般的な倉庫が、小屋のすぐ裏に並べられていた。
扉が半開きになっているところは無いだろうか?
悪寒から生まれてくる勘からか、尊も右京なら必ずするであろう行動をとっていた。

そして、見つけた。

10ある倉庫の中の一つに、入り口のぬかるみと基礎のコンクリートに、女性の足跡と思われる泥の下足痕がついている。

尊「あの、あそこにある泥の塊は何なんでしょう?」

亜弥加「わあ☆ゲソ痕ですね」

初めて事件らしい事件に遭遇したからか、今まで黙ってついてきていた亜弥加が、横で嬉しそうな声を上げた。

尊「緒川さん。この中、調べさせてもらいますが、いいですか?」

しかし緒川の返事は意外なものだった。

緒川「構いませんよ」

そう言って、緒川は尊の前で鍵を取り出し、倉庫の鍵穴に差し込んだ。
『鍵?!何で?!』
尊の中にヒヤッとしたものが流れた時、林の方から聞き覚えのある声が上がった。

伊丹「警部補殿!」

思わず驚いて目を見開く。

尊「伊丹さんたち。どうしてここに?」

芹沢「神戸警部補、五嶋暁美さんですがこちらで保護しました。やっぱり偽名でしたよ」

尊「ここに来る前に見つかったんですか?」

目を丸くしたままの尊を伊丹はぐいっと肩に左腕を回して、引っ張るように亜弥加から距離を取った。

芹沢「杉下警部が頼んでおいた発信記録の照会が取れたんで、警部補のあとを着いてきたんです」

尊「杉下さんが?!」

伊丹「芹沢ぁ。着いてきたは余計だ!」

と、いつものように芹沢をドスの効いた声でどつくと、伊丹は声を更に落とす。

伊丹「事情は警部殿から聞いています。お嬢ちゃんの前で、殺人の話なんて出来ますか」

尊「そうなんですが、でも彼女だってこの件には無関係じゃないですし」

伊丹「だったら余計です。警部補殿のおかげであいつからも事情聞けるんで、特命係はいつもどおりさっさとお引き取りください」

          ▽        ▽

第三章.3に続く
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1776760770&owner_id=1883219
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2011年09月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930