単なる思い出です、えぇ。
男は、わたしを求める手を止めた。ぽっぴんＨが、
「ねぇ、おなかすいた！ もうダメ限界、何か早く食べないと。血糖値が下がってめまいがスル。何でもいいけど持ってないの？」
と騒ぎ出したからである。
男「このファンタしかない」
ぽ「なんで何にも積んでないの、この車！」
男「……」
黙り込む。夜中の１１時。
ぽ「わたしね、今日の深夜２時にスパゲッティを作って食べたの。それから４時にデーツをかじりました。あと、夕方４時にクッキーとカフェオレでした。それだけなの！ だからおなかすきましたっ」
男「……」
何も返さない。目までつぶっている。
ぽ「ねぇ！」
男「うん」
ぽ「聞いてる！？」
男「あぁ」
ぽ「じゃあわたしが何て言ったか復唱して」
男「２時にスパゲティを食べた。４時にデーツを食べた。１６時にクッキーとカフェオレ、それでおなかが空いている」
男は目を閉じたまま諳じてみせた。
ぽ「そう！ すごーい、よく覚えてますね全部！」
嬉しくてわたしは彼のほっぺに吸いついた。
ぽ「あっそうだ、聞きたいことがあります」
男「なに（怒）」
ぽ「ドイツが国内の核兵器を早く撤去したいと言ってるじゃないですか、どうしてですか。わたしなら、引き揚げられようとしたら『待って！』って抵抗します。教えて下さい」
男「核兵器がない方が国内的に、つまり政治的に安定する。ない方が都合のいい人達がいる」
ぽ「そうなんですか」
男「ドイツではそう。でもオランダやベルギーなんかは、むしろ『その分こっちにくれ』と言っている」
ぽ「ほぅ！」
男「……」
ぽ「わかりました。ありがとうございます」
男「……」
ぽ「今日、沈黙が多いですね」
男「耳にキスして」
ぽ「は？！」
男「だから耳にさ」
ぽ「わたし、おなかすいてるんですよ、本気でかじりつきますよ！」
男「やだそれ」
ぽ「ほら見て」
（自分の耳たぶを見せる。白いシールが貼ってある）
男「なにこれ」
ぽ「今日、血液検査で切られました」
男「え！」
ぽ「あなたも油断するとこうなりますよ」
男「なんでだよ（笑）」
ぽ「あ、笑った笑った」
男「たまたまだよ」
男は急に近づいてきた。
ぽ「な、なにするんですか」
男「脱がせることにした」
ぽ「それはダメですね！ ちょっとちょっと、やめて下さいってば」
男はブラウスのボタンをあっという間に外した。
（続きます）
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