わたしは、詰め所で机に向かう先生を見に行き、ちらちらと遠慮がちにしつこく観察したあと、「ＫＹＫＹＫＹＹ」とつぶやきながら自室までの長い廊下を歩く。それは、かっこよすぎるかっこよすぎるかっこよすぎてやばい、の略である。
さて、恐怖のブロック注射が始まる。わたしは美男子の指示でうつぶせに寝かされ、ひじをつき祈りのポーズをとった（「祈り」は指示にはない）。わたしはまな板の鯉のように恐怖の気持ちでじっとしている。パンツを降ろされておしり丸出しになる。しかも真正面先生が直接さわってきた。看護師さん（女性）がすればいいでしょっての。準備ができたところで真正面先生が、「巨匠を呼ぼう」と言い電話をかけた。看護師さんと技師さんが見守る中、真正面先生がおしりの皮膚の消毒をする。わたしは「先生と話したかったから」いくつか訊ねてみた。
「今日も痛いですか？」
「前回と違う点はありますか？」
「かかる時間は」
「来週もう一回デスヨネ」
彼は答えてくれたが、わたしは近づきつつある注射におびえ、もう何が何だかな感じであった。大御所先生が走って来て、いよいよそれが始まる。真正面先生が報告する。
「相当トラウマになってるみたいです、『今日も痛いですか』って訊かれましたもん」
やめてはずかしいーというよりこの体勢からして情けなさすぎるー。施術の最中にはぽっぴんＨの悲鳴が部屋中に響き渡る。「うごー！」「ぅぐえー！！」「イダイですイダイですもうッ！！」……続けるのがあまりにも無理そうなので、一旦針を抜かれた。次に刺すとき、胴体を少し斜めにするよう言われるが、わたしはガクガク震え、ガチガチに固まって動けない。大御所先生が両手を使い腰をひねらせようとする。まだそのまま。看護師さんも加わってきた。それでもわたしは肩で激しく息をしながら、肝心のおしりは真上を向いている。ついに真正面先生が腰にタッチしてきた！ ぽっぴんＨは観念して、というより力が抜けて、彼らの望む方向と角度に腰部が傾いた。そして２度目にも、「だぁダーダメですやめでぐだざい！」「げー限界でつってば！！」……わたしの叫び声は続いた。
「よし、おしまいにしよう」
大御所先生の仏の言葉を合図に、苦行のごときブロック注射は終了となった。
（続きます）
ログインしてコメントを確認・投稿する